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目的の屋敷に近づいた守満《もりみつ》一行は、先客の姿を見た。


「おい、髭モジャ、あれは……」


「ありゃ、また、これは、話がこじれそうですなぁ」


思わず、二人して肩を落としてしまう人物は、馬の鞍の上に立上がり、屋敷の築地塀へしがみついて、「秋時ーー!!出てこいーー!!!」と、叫んでいた。


月明かりに、ほんのり照らされるそれは、言わずと知れた、斉時《なりとき》で、必死の形相を浮かべている。


守満も、髭モジャも、秋時は、三条土御門《さんじょうつちみかど》様の、屋敷に隠れている。そして、屋敷の主は、噂通り、怪しい輩を集める公達であると、確信を持った。


「これは、斉時様へ、おまかせするのが一番だろう」


「……ですが、そうなると、扇は……」


守満へ、髭モジャが言い渋る。


「髭モジャ殿の、出番では?」


髭モジャの懐から、親分猫が、顔を覗かせる。


「ん?ワシの?」


「扇を矢に結わえつけて、ひゅんと……」


親分猫の突拍子もない考えに、守満は、半ば笑いをこらえながら、


「いや、それなら、斉時様に、ことづける方が早いと思いますよ?」


と、親分猫へ、やんわり言った。


「ほっほっほ、確かに、そうじゃが、せっかくですぞ?それに、あれでは、小わっぱも、出るにでられず、でしょうなぁ」


確かに、出て来い、出て来いと、叫ばれては、出るにでられず、というのもあり得る。


それも、父親の怒り声だ。秋時ならば、逆に引きこもる事だろう。


「まあ、そのうち、屋敷の者が、出て来るとは思いますがのお、さて、それも、いつになることやら」


「うん、確かに。知らぬ存ぜぬ、はたまた、塀の向こう側から、声をかけてくるかもしれない。と、なると、やはり、髭モジャの出番か」


守満も、どこか、楽しげだった。


「守満様まで!」


一方の、髭モジャは、渋い顔を崩さない。


「なあ、頼むよ、髭モジャ。これでは、屋敷へ戻れないだろ?」


守満の、懇願に、髭モジャは、今回だけだと、了解しつつも、懐の親分猫へ、余計なことを言いおって、と、苛立ちをぶつけた。


早速、髭モジャは、桧扇を受け取ると、矢に、扇の両脇についている飾り紐で縛りつけた。


「うーん、これは、なかなか、難題じゃのお。こんなもの、つけた、矢が、飛ぶのかのぉ」


髭モジャは、自信なさげに呟きつつ、親分猫へ、どこを狙えば?と、問うた。


「軒下に吊るされている、飾り灯籠を狙いなされ。そうすると、丁度、軒を支える柱へ、刺さるはずじゃ」


はあ、まあ、それだと、皆の目にとまりやすくはなる、斉時に、声をかけなくとも良い、と、守満達にとっては、良いことずくめではあるが……。


「ここから、あの、距離。親分猫殿も、無茶を言う。おお、そうじゃ、親分猫殿が、塀を越えて、届けるというのが、早いで、あろう!」


「あっ!その手がありましたな!親分猫殿!」


二人に言われて、親分猫は、あ、あ、あいたたたー、持病の腰痛がー、もう、ダメじゃ、などと、芝居を打ってくる。


「なあ、髭モジャよ、猫に、持病と、言わせてはならぬだろ、頼むよ」


守満の頼みに、髭モジャも、懐の親分猫に、呆れながら、渋々承諾した。


そして、ご免!と、言うが早いか、守満の後ろに飛び乗り、その肩へ、手を添えると、馬の背に立ち上がった。


「ひ、髭モジャ!わ、私がいない方が、楽なのでは?!」


余りにも、素早い動きに、守満は、泡を食う。


「いや、守満様が居られた方が、その、お背にもたれかかれて、体が、安定しますのじゃ、暫し、ご辛抱を!」


と、言う間に、矢をつがえている。


「おおお!!」


守満は、その素早さに驚いたが、下手に自分が動いては、髭モジャが危ないと思い、そして、馬も、動かぬよう、手綱をしっかりと握った。


「親分猫殿、この角度でよろしいか?」


夜目の利く親分猫へ、髭モジャが、確認した。


「うむ、髭モジャ殿よ、もそっと、上へ」


「いや、それでは、柱ではなく、釣灯籠に当たってしまうじゃろ?」


「それで、よいのじゃよ、ほっほっほ」


「髭モジャ、とにかく、親分猫の言う通りに!」


はい、もう、知りませぬぞ。と、ごちながらも、髭モジャは、キリキリと、弦を引き……、それ!と、一声、矢を放った。


ひゅんと、弧を描き矢は飛ぶと、軒下の釣灯籠の飾り彫りの紋様の間に、ガツンと、突き刺さる。


その、衝撃で、釣灯籠は左右に大きく揺れた。中の油が、周囲に飛び散り、矢には火が、燃え移った。


揺れる釣灯籠に、燃える矢──。


飛び散った、油にも、その火は、燃え移り、柱が、メラメラと、燃え始める。


「お、おわっ!!!なんじゃ!今の!!ひゅんと、飛んでったぞ!!っつーか!!!おい!火事じゃ、秋時よ!火事じゃぞおーー!!!」


斉時の叫びに続くように、びぃーーーん、と、耳障りな音がした。


「いやはや、この爺は、琵琶など、奏でられませんで」


親分猫が、髭モジャの懐から飛びだして、守満が背負っている、琵琶の弦を、足で弾いていた。


「おお!!!琵琶っ!!!ちょっと!お前さん達!!琵琶が鳴ったぞ!!あやかし琵琶法師が、火を放ったんじゃねぇーのか!!!」


叫ぶ斉時に、守満は、成る程と、唸なりつつ、


「髭モジャ!早く、座れ!屋敷へ、戻る!」


と、乗る馬の胴を蹴った。

羽林家(うりんけ)の姫君~謎解き時々恋の話~

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