トモコはとても感心していた。
内気な彼がこの世界にきた途端に才能ともいうべきものを発揮していたから。
「じゃあお待ちかねのステータスを……」
アツシが映し出したステータスはトモコにも見えるようになっている。
「鑑定、翻訳、剣術に槍術に……お、魔術!」
「魔法の方がなじみあるかもだね」
「どっちでもさ。それも“魔術創造”だって」
「へえ……どんなスキルなの?」
異世界に訪れたことでトモコもアツシもこれまでのような“ぎこちなさ”が無くなってきているが、気づきもしない。
それほどにふたりの興奮は高まっているということだろう。
「こういうときこそ“鑑定”の出番さ」
そしてスキルを使ったらしいアツシは「思った通りのものだった」と高笑いしてトモコに説明した。
「──僕はこの世界でてっぺんに登ってやる」
「てっぺんて何?」
「人類の、一番さっ」
それからのアツシは魔術の練習だと言って目につく動物も魔物もかたっぱしから魔術で倒していった。
ステータスには他にレベルや能力値も表示されていて、魔物を倒すたびにレベルアップし、どんどんと強くなっていく。
レベルが5になった時にはアイテムボックスというスキルを手にして、倒した魔物たちをどんどんと放り込んでいった。
やがて空の色が夕焼けに変わる頃、アツシでも気づいたことがある。
「あれ? これって元の世界は……」
とたんに背筋が寒くなる思いをする。学校もゲームも捨てても良いとは思ったものの、さすがにいきなりは困る。アツシにはまだ読み終えていない本たちもある。
「もちろん帰れるよ。わたしはいつもここから登校してるもの」
笑顔で即答するトモコ。アツシもそれなら安心だと言ってこの日は帰ることにした。
「また明日、学校で」
「うん。教科書見せてね」
思えばアツシがそれを口にしたことから今ここにいる。
「教科書でよければいくらでも──」
「ありがとう」
トモコがいつのまにか用意した出口は小さく、アツシが先に出た場所は例の段ボールハウスの前だ。
「もっとマシな入り口はなかったのかな」
「でも──秘密っぽくていいでしょ?」
「そう、だね。僕とトモコちゃんの秘密だ」
「えっ……」
「あっ、いや……じゃあ、またっ」
「また……アツシくんっ、今は同じ日の夕方だからねっ」
「うんっ、だいたい分かるっ。また明日っ」
「また明日っ」
手を振り見送るトモコと、土手を駆け上がるアツシ。
夕日が染める帰り道をアツシはこれまでに感じたことがないほどの高揚感に包まれて駆け抜けた。
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