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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「ここはこうで……」

「うん、なるほど分かりやすいね」


静かな教室に小さく聞こえる会話。それは授業を進める先生にこそ聞こえないけれど、周りには聞こえて知られてしまう。


だけどふたりには関係ない。


机をくっつけた関係も今は当たり前の光景で、その当事者たちがいつくっついてもおかしくは無いのだから。


「そのうち何か聞かれそうだよね」

「まあ、その時はその時でいいんじゃないかな」


さすがに教室を出るのは別々にしたものの、歩いてたどり着く先はいつも同じ。


「この段ボールハウスももう別荘みたいなものだよ」

「ふふ、なにそれー」


笑いながら小さな入り口をくぐるふたりを見とがめるものはいない。


セミの鳴き声がうるさい川辺で、ふたりを飲み込んだ段ボールだけが静かにたたずんでいた。




「さあーってと、長い道のりもいよいよクライマックスかな」

「まだまだ行ってないところがあるとか言ってなかった?」


アツシは初日にトモコが出口を用意出来たことから当然の可能性を考えていた。


トモコは出入り口を自由にだせる。


つまり、段ボールハウスをくぐった先を指定できるのだ、と。


そしてそれは当たっていて、アツシはさながらセーブポイントのごとく活用していた。


そんなふたりがいるのは、暗雲立ち込める山脈に立つ城の前だ。


「ここらへんまでが、あの時トモコちゃんに連れられてきた丘から見渡せた範囲だもんね。だからその外はまだ、なんだ」

「あれだけ色々したのにまだ足りない?」


トモコが苦笑いして言ったのは、この2ヶ月ほどでアツシがやってきたことである。


「まあギルドで絡んでくるモヒカンを華麗に倒したり、いきなりSランク認定されてみたり……鑑定を内緒にして王様から魔王討伐の依頼を受けたりしたけどまだまだだよ」

「パーティは組めなかったものね」

「うっ……それは釣り合う奴がいなかったから、さ」


実際にはコミュ障を発症させて誰とも絡めなかったせいではあるが、ここまでの道のりはアツシの努力もあり順調そのものでやってきた。


そうして他愛のないことを話しながら、魔王城と教えられて訪れたダンジョンも危なげなく攻略していく。


アツシの魔術創造のスキルは、その頭の中に溜め込んだラノベ知識をこれでもかと盛り込んだチートの中のチートと化していて、あわれ魔物たちはアツシに近づく間も無く倒されていく。


「──そういえば、さ。トモコの転校生してきた日……何もしてあげられなくてごめん」

「え? それってどういう……」


魔王城を嵐のように攻略したふたりは、一番高い階層にある大きな扉の前にいる。


アツシがレベルアップした鑑定で魔王の居場所だと知ったところだ。


「あのとき、泣いてたろ? 俺も……静かそうなやつで良かったとか思っちゃってさ」


アツシはこうしてトモコと仲良くなったからこそ、あの時のことを形だけでも謝っておきたい。


それに対するトモコは、実に複雑そうな顔をしている。


「変な名前とか、さ言われてよ」

「あ……そっか、見られてたかあ……恥ずかしいな」


思い出したように、トモコは顔を手でかくして口にする。


「あの時、変な名前はまだいいけど……変な顔ってのはちょっと傷ついたかな……って」

「……そう、だよね」


やがて気持ちを落ち着けたらしいトモコは顔をあげてアツシに微笑む。


だから、アツシは意を決して口にする。


「……でもさ、変な顔なんてことはないぞ?」


照れながら。


「ていうか……すっげえ可愛いし」

「え……?」


顔を真っ赤にしてそっぽを向きながら。


「そのデカい眼鏡も、長い耳も、大きな目も、小さな鼻も……口も、全部全部、可愛い……って言ってんだよぉぉ」


そこまで言って耐えきれずへたり込むアツシ。自他ともに認める陰キャである彼にはこれで精一杯だった。


「ふふ……ありがとう。アツシくんにそう言ってもらえたら、それだけでわたし──」

「うんっ、行こう! この先へ、魔王を倒して……そんでずっとふたりで!」

「──ありがとうっ、ずっと、ずっと待ってた。アツシくんがそう言ってくれるのを」


ふたりは手を取り、扉の先でそれぞれの目的を達成した。




「アツシくん、今度こそ……ようこそ異世界難民救済センターへ」

「うん。本当にありがとう」

「ううん、お礼を言うのはわたし」

「ん? あー、僕がこの世界を救済しちゃったからなー。勇者認定間違いなしってね」

「まあ、そんなところだよね。わたしもちゃんと救済できて良かったぁ」

「ありがとう」

「ありがとう」


「さようなら」

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