季節は冬。2月の終わり頃。
日本古来の暦では春に分類されるが、雪は溶けきっておらずまだまだ寒い日々が続くことはわかりきっている。
冷たくなってきた指先にほぅ、と息を吹きかけ、早朝の澄んだ空気の中桜並木の中を散歩する。
「来月には満開ですかねぇ…」
俺の後ろに立っている看護師さんが呟く
「見れるといいんですけどね、w」
そう返すと、彼女はたいへん慌てた様子で己の無神経さを詫びた。
そう。数年前歴史に残る大戦に巻き込まれ見事帰還した元軍人こと俺、ぺいんとは、帰還できたはいいものの意識不明の重体で発見されたため身体のあらゆる機能が退化し、余命数年だと宣告された。
それからというもの、特にやりたいこともない俺は、戦いとは無縁の穏やかな暮らしを営んでいた。
だがしかし、タイムリミットは刻一刻と迫ってきている。
時間は戻らない。増えることも、減ることも、早くすぎることも、ゆっくりとすぎることもない。
俺は、きっと満開の桜を見ることは叶わないだろう。
それは俺自身が1番よく分かっている。
1人では立てないほどに弱った筋肉や膝によって、移動するためには誰かに車椅子を教えもらわなければならなかった。
自分で食事をすることも、移動することも、呼吸をすることですら出来ない。
本当は今すぐに死にたいくらい辛かったが、短い人生だし、どうせなら最後まで生きてやろう、と考えている次第だ。
それと…
「ぺいんとさ〜ん!」
「今日のおやつはカップケーキですって!」
「一緒に食べましょー!」
少女のような容姿をした紫色の髪が、松葉杖をつきながら満面の笑みでこちらへやってくる。
「おい!危ないって!」
「大丈夫ですよ〜!最近慣れてきましたし!」
「慣れてきた頃が1番危ないんだよ?」
後ろから、小走りで2人の男性が後を追ってくる。白髪のパーカーを着た奴と、筋肉質で白い帽子を被った奴だ。
紫髪の彼はしにがみ。女っぽい見た目をしておいて男らしい。俺も最初間違えた。片足を酷く骨折したらしく、俺の隣のベッドに入院している。2週間後には退院予定らしい。
あとから来た2人は、クロノアさんとトラゾー。しにがみのお見舞いによく来ている。
3人とは、何もやることのない入院生活の中隣同士ということでよく話したりゲームしたりしている。俺の余命のことは話している。
だが、3人は特に気にすることもなく普通に接してくれる。最早忘れているのかもしれないな。
「カップケーキ!?行く行く!」
精一杯の笑顔と大声を彼らに向け、看護師さんにお願いして前に進む。
今日も、俺は幸せだ
コメント
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rdpnのはずなのにpn主のntju物語と思ってしまうのだが。() 戦争から数年後の世界観かぁ…、 「memory」ってのも もっと先の未来で、過去を振り返って〜 みたいな感じか、? ( ?? )