テラーノベル
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最近の銀座は、インバウンドの勢いもあって、平日の昼間でもずいぶん人が多い。
日によっては、日本人のほうが少ないんじゃないかと思うことさえある。
それに、今日は薄曇りだった。
今にも雨になりそうな空の下を、街ゆく人たちは、濡れまいとするように少しだけ足を速め、みんな揃って俯き加減に歩いている。
こういう日は、街に紛れ込むのが簡単だった。
誰もこちらを見ていないし、こちらも誰かを見る必要がない。
食後にコーヒーでも飲もうか、と大通りに面したデパートへ入った。
ブックカフェで、二人で面白そうな写真集や画集を眺めた。
ページをめくりながら、これは好き、これはそうでもない、と、とりとめのない話をする。
それからカフェでコーヒーをテイクアウトして、屋上庭園へ上がった。
ここの屋上は、ちょっとした穴場なのだ。
開けた水面広場の向こうには、都会の真ん中とは思えないほど、鬱蒼とした小さな緑地がある。
ところどころに置かれたベンチも、互いに顔を合わせないような向きになっている。
今日は弱い雨が降ったり止んだりしていたせいか、人影はなかった。
木陰に、かろうじて濡れていないベンチを見つけて、並んで座る。
ランチはラウールの奢りだったので、コーヒーは康二が払った。
紙カップから立ちのぼる湯気を眺めながら、ただゆっくりしていた。
こういう時間を過ごせる日は、今年はもう、いくらも残っていないだろう。
海外へ行った目黒が合流すれば、コンサートのリハーサルもいよいよ本格的に始まる。
そのまま少しずつ年末年始の進行に入っていけば、休みらしい休みもなくなる。
そう思うと、何でもない今日のことが、少しだけ特別なものに思えた。
霧のような雨は、相変わらず降ったり止んだりしている。
コーヒーはまだ温かくて、隣にはラウールがいる。
それだけのことなのに、時間が普段よりゆっくり流れているような気がした。
「ねぇ、さっきもらったお土産、一緒に食べない?」
そう言って、バッグから包みを取り出した。
「おん。らうがええなら、一口ほしい」
自分の分を買いそびれてしまったけれど、ロンドンでも話題になっていたチョコレートだ。
気にならないわけがない。
「はい、どうぞ」
差し出されたブロックをひとつ、分けてもらう。
口に入れた途端、康二の顔がぱっと明るくなった。
「うまぁ! なにこれ。中のやつ、食べたことない味や。コーヒーにめっちゃ合う!なぁ?」
目を輝かせて振り返る。
ラウールもひとつ口に入れる。
濃厚なミルクチョコレートの中に、ピスタチオのカダイフがざくざくと入っている。甘さのあとに、細かな食感が残った。
「ほんとだ。こんなに美味しいの、初めてだ。康二くん、お土産選ぶセンスいいね」
「せやろ?」
そう言って微笑み、コーヒーをひと口飲む。
二人でしばらく、何も言わずにいた。
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