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萩原なちち
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「……それ、俺、ホワイトチョコがいいです」
「あ、でもこれ、俺が指で触っちゃったし」
「ホワイトチョコが一番好きなんですぅ」
あ、と大きく口を開けたりゅうせいが、俺が運んでくるのを待っている。
待ってくれ。可愛い。なんだこれ。心臓のバックバクが止まらない。
指先が震えないよう細心の注意を払いながら、そっと口の中にチョコを放り込む。
「……おいちい」
なんて言いながら、ほっぺを押さえて至福の表情を浮かべている。
待ってくれ、本当に。可愛いが渋滞しすぎて、脳が処理しきれない。
「……いつきくぅん、顔真っ赤ですよ?」
「うるせぇ」
いっちゃんにコソッと、ニヤついた顔でバカにされ、俺は咄嗟に背中を向けた。
誰も気づいてないよな? りゅうせいにだけは、この動揺を絶対に見られたくない。
「俺アーモンド貰いますんで、いつきくんは最後に残った、このよくわかんないの食べてくださいね」
何事もなかったかのように、いっちゃんが最後のチョコを掴んでデスクに戻っていく。お前、それ本当に今日中に仕事終わるんだろうな?
「さあ、いつきくん、行こうか! 俺、7時にレストラン予約してあるんだぁ」
「おう、ちょうどお腹も空いてきたしな」
「じゃあ、お二人さんも楽しいクリスマスを!!」
まだ仕事が残っている二人に向かって、だいきが元気よく手を振る。
少し前までは心配で仕方がなかったけれど、今日は……最高にいい日だった。りゅうせいが前みたいに甘えてくれて、ヤキモチを焼いてくれて、チョコだって俺の手から食べてくれた。
もう、思い残すことは何もないくらいだ。
「……いつきくん、なんだか嬉しそうっすね」
「え、そうか? いつもと変わんないだろ」
自然と口角が上がっていたのを指摘されて焦る。お前のせいだよ。いや、お前のおかげだよ。
「デート、楽しんできてくださいね」
「……おう」
案外、割り切ったような笑顔で言われたけれど、不思議と傷つかなかった。
避けられていた頃を思えば、今日という日は幸せすぎてお釣りがくるくらいだ。
「いつきくん、今日は一緒にいてくれて本当にありがとう」
コース料理を終え、冬の夜風に吹かれながら歩く。街のイルミネーションが、だいきの横顔を鮮やかに照らしていた。
「ううん。それより本当に良かったの?俺、もうお金の余裕あるのに」
「今日は俺が『いつきくんのクリスマスを買わせて』ってお願いしたんだから、気にしないで?」
「そっか。ありがとう。……今度どこか行くときは、自分の分は自分で払うから」
「あ、そこは『俺に全部払わせて』じゃないんだ?」
「まあ、恋人じゃないしな」
「……そうだよね。じゃない、しね」
だいきが何かを言いかけて飲み込む。その言葉の続きを、俺は静かに待った。
これまでずっと、俺のそばにいて支えてきてくれたんだ。俺はちゃんと向き合いたい。だいきだって、他の二人と同じくらい大切な存在なんだから。
「……いつきくん。また、誘ってもいい?」
「もちろん」
そうか、だいきがそれでいいなら、それがいい。
俺も、ずっとこうして笑い合える、仲のいい友達のままがいい。
「え、俺なんも持ってきてない」
「バカだなりゅうせい、お泊まりだっつってんだから、普通用意してくるだろ?」
「俺パンツ忘れたから、パンツ貸してね、いつきくん」
「絶対やだ」
小さなテーブルを4人で囲み、飲み始めて早々パンツの話かよ。狭い部屋に4人の熱気と酒の匂いが充満している。だいきがやけに密着してくるせいで、冬だというのに妙に暑苦しい。この先、何事もなく平和に過ぎればいいんだが。
「え~じゃあ後で取りに帰ろっかな、スーツじゃ寝れないし」
「ん、りゅうせい、俺の貸すから取りに帰らなくていいよ。身長あんま変わんないでしょ?」
「え、いつきくんのパンツも?」
「バカ、だいきは後でパンツ2つコンビニで買ってきて」
「え~いつきくんのケチぃ」
ケチだとかそういう問題じゃないだろ。衛生的な問題だろうが。
「二人ともほんっとダメなんだから。ねえ?いつきくん?」
「いっちゃんも、この前泥酔してそのまま俺のベッドで全裸ダイブしてるからね。ダメなのはみんな一緒だよ」
「だって、いつきくんとシャワー浴びようと思ったら鍵閉められたんだもん。そりゃ絶望でダイブするっしょ」
「え、シャワー室って鍵あるんすか?」
「俺も初めて知った」
「ね?」なんて、今のいっちゃんの奇行を聞いて、気になるところがそこかよ。ズレた2人が仲良く目配せしているのを見て、思わず溜息が出る。
お酒も進み、夜も深くなる。ここまでくると、強いのと弱いのとで明暗が分かれてきたな。
「らからぁ、俺、彼女に言ってやったんすよぉ。しごととぉお前はくらべる物でもないしぃ、そもそもベクトルが違うっていうかぁ」
「わかった、わかった。いっちゃんの言いたい事はすごくわかるよ」
数日前のクリスマスに残業をしたことで、いっちゃんは彼女と揉めているらしい。……いや、実際には遊び呆けて遅れただけなんだけどな。
「そう、好きな人と一緒に過ごす為に、他の事も頑張ってるんだよね? やっぱお金大切だもんね、いつきくん?」
だいきが酔っ払った目で俺を覗き込んでくる。それにしても近すぎる。
「だいきくん、ちょっと距離近すぎ。いつきくん潰れちゃうから」
見兼ねたりゅうせいが、だいきの肩を強引に引き剥がした。だいきはまだヘラヘラしているが、りゅうせいは飲んでも表情があまり変わらない。冷静な瞳が、酔って火照った俺の顔をじいっと射抜いてくる。
「……りゅうせい、飲んでもあんま変わんないな。俺、もうあっちぃ」
思わず額の汗を拭い、手をパタパタさせて顔を仰ぐ。りゅうせいの視線が痛い。そんなに顔に出てるのかな。
「……だいきくんがくっついてるからですよ。ほら、だいきくんはいっちゃんの方行って!」
「はーい……」
りゅうせいに促され、だいきが千鳥足でベッドへ向かう。先に潰れたいっちゃんの隣にコテンと転がったのを確認して、ふうっと息をつく。
部屋が静まり返り、少しだけ冷たい夜風がカーテン越しに入り込んできた。ようやく、二人きりだ。