テラーノベル
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「教室の方は……大丈夫?」
女のリーダーが、背後の扉に目をやりながら若い男子に問いかける。その視線に合わせるように、男の子――《ファイアーヒューマンドロップ》のリーダーはぎこちなく頷いた。
「え、えぇ……教室は今、ルカさんたちが出し物を担当してくれてます」
「そ、良かった」
安心したように微笑むその表情は、どこか作り物めいていて不自然だった。
「で……話ってのは?」
「ふふ。あの手紙を渡したのは私じゃないのよ。――ね、すひまる?」
「え?」
驚いたように、男の子はすひまるを振り返る。
すひまるはうつむいたまま、小さな声で震えるように、
「……ごめんなさい」
と、ぽつり。
「な、なにを……」
「ほら、すひまる。アンタでも扱える相手を選んだんだから。早くしなさい?」
「……はい」
すひまるが顔を上げた。目は潤んで、けれど決意が宿っている。
そのまま制服の上着を脱ぎ、スカートのまま立ち尽くすと――
「す、すひまるさん? な、なんですか、それは――!」
ぐにゃ、と音を立てるように変化する身体。
背中からは破れた羽のようなコウモリの翼。腰からは二倍の長さの毒針付きのサソリの尾。
肌は紫に染まり、唇の端から覗くのは鋭い犬歯だった。
――異形。
少年は、咄嗟に扉に駆け寄ろうと背を向ける。
しかし。
「ッ……!?」
扉の前にも、同じ姿の異形が立ちはだかっていた。
「あなた達は……いったい……」
その言葉が終わる前に――
ぶすっ。
すひまるの尻尾が男の背に突き刺さり、その場に倒れ込む。
ぴくり、と一度痙攣して、意識は闇の中へ。
「さ。出ておいで」
その女の声と同時に、ひとつの個室の扉がカラリと開く。
紫の球体のような存在――目も鼻もない、ただ鋭い牙と尻尾だけを持つその魔物が、ぬるりと出てきた。
そして。
「……」
倒れた少年の首筋に牙を食い込ませ、血を吸う。
みるみるうちにその姿が変わり――やがて、そこにはさっきの少年と寸分違わぬ姿の偽物が立っていた。
「ありがとうございます、幹部様」
「当然よ。すべては我らが【魔王アビ】様のために……」
「……」
すひまるは、倒れている少年をじっと見つめる。
死んではいない。血を少し抜かれただけ。
でも――心の何かが軋んだ。
「こ、この人……は?」
「はぁ? 他の人と同じよ。連れて行って食事作ってもらうの。今回は私が転移魔法陣まで運ぶから」
「……」
すひまるが沈黙すると、偽の少年――吸血鬼は耳打ちのように報告を始める。
「ところで……実はさっきから気づいてましたか?他にも来客がいますよ」
「ほう?」
女幹部はわずかに眉を上げ、トイレの個室を見やる。
「……鍵をかけても、無駄よ」
ガチャリ。
「あら。可愛い子ね」
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