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脱衣所で服を着替えると、ふと騎士たちの使っている装備が目に入った。
「フリーデ将軍って、聖剣持ってんのかな?」
俺は脱衣籠から彼女の白鎧装備を漁ると、ファルシオンとラウンドシールドが見つかる。銀色の光を放つファルシオンを手にとって調べてみる。鉈のように刀身が反った剣で、耐久力が高く扱いやすい武器だ。
しかしながら特に竜の力が封印されているわけではなく、ごくごく普通の帝国式指揮官用装備だ。
「やっぱ聖剣じゃないな」
俺の紋章が反応していない。
ってとこは、持ち歩いておらず自宅に大事に保管してるってことか。
とられたら困るものなのは確かだが、ずっと金庫で保管するってのもどうなんだ? と思う。
「黒か……良いパンツ履いてるな」
ビロンと三角の薄布を広げていると、背後でシャワー室の扉が開く音が聞こえた。
ビクッとして振り返ると、全身から湯気を登らせたフリーデ将軍が立っていた。
「王子?」
衣類を物色する俺を見て、目をパチクリさせる将軍。
「待て、落ち着いてほしい。そしてヒゲ将軍にチクらないでほしい」
彼女は濡れた金の髪をかきあげると、はぁと息をつく。
「全く……。あなたならいくらでも美女を呼べるでしょう」
「将軍のパンツを探していたわけではなく、実は聖剣を探していたのだ」
「聖剣?」
「そう、神竜ファフニールの力を封じ込めた奴。俺は聖剣の回収もメッサー王から命じられていて」
「私の家にありますが、お返ししたほうがよろしいですか?」
「いや、帝国側にあるなら別にいいんだ。ただ、ちょっと確認だけはしておきたいなと」
正直に話すと、フリーデ将軍はなるほどと頷く。
「でしたら、明日私の家までお越し下さい」
「いいの?」
「はい、勿論。というか王子、そろそろ出ていただけると後ろの騎士たちも助かるのですが」
将軍の後ろには、浴室から出て良いのかわからず困っている騎士たちの姿があった。
◇
翌日、俺はフリーデ将軍と共に馬車で彼女の自宅へと向かう。
エスタの富裕層街にそびえ立つその屋敷は、まさに帝国将軍の家にふさわしい壮麗な建築だった。
屋敷の外壁は白を基調とし、随所に銀と紺の装飾が施されている。重厚な鉄製の門には帝国軍の紋章が彫られ、門の両側には鎧を纏った衛兵が立っていた。
玄関を通ると、吹き抜けの広間が現れる。高い天井には精巧なシャンデリアが吊るされ、柔らかな光を放っていた。
床は磨かれた大理石で、足音がわずかに響く。壁には戦功を称える剣と盾が飾られ、中央には帝国軍旗が掛かっている。
「こちらへどうぞ」
案内された客間は、広々とした空間に落ち着いた色合いの家具が並ぶ。豪華すぎず、それでいて品のある調度品が、住まう者の気品を感じさせる。
「お茶を用意しますので、そちらでお待ち下さい」
フリーデ将軍に促されソファーへと腰掛ける。すると奥の方からエプロン姿の男が小走りで現れた。
「お帰り、フリーデ!」
ありんす
1,555
宮毘羅
20
#シクフォニ
らの☆📢🍍×🌸推し
269
痩せ型の男——トニーは、柔らかな笑みを浮かべて妻を出迎える。
その顔立ちは穏やかで、軍人然としたフリーデとは対照的に優しげな雰囲気を醸し出していた。
「ただいま、トニー」
フリーデ将軍も自然な笑顔を見せる。彼女がそんな表情を見るのは珍しく、一瞬新婚夫婦らしい空気が漂った。
トニーは俺に気づくと、驚きの声を上げる。
「これは王子! ようこそいらっしゃいました。えっと、お茶を——」
「トニー、お茶はメイドが入れるから」
「あ、うん。でもせっかくだし、お茶菓子も——」
「いいから座っていて」
フリーデ将軍は軽くため息をつきながらも、トニーをたしなめるように言う。
しかしトニーは負けじと「いや、せめてお皿くらい——」と落ち着きなく動こうとする。
「そんなに働かなくてもいいのでは?」
帰っても仕事をしたがるトニーに言うと、彼は「あはは、つい癖でして」と苦笑う。
フリーデ将軍は腕を組んでため息をつくが、彼女の表情にはどこか愛情が滲んでいるように見えた。
メイドからお茶を入れてもらい、ソファーで一息つく。
フリーデ将軍と、トニーは並んで対面に座る。
「しかし、良い家だな」
「ありがとうございます。父バルトにいただいたもので」
「意外と優しいんだな」
「結婚には大反対されたのですが、最終的には折れてくれて」
娘が結婚したいって心に決めてたら親はどうしようもないよな。
「子供はいないのかな?」
「育児は軍務に差し支えますので」
「確かに」
軍人って、どのタイミングで子供つくっていいかわかんないもんな。
「後はトニーが……」
「いやはや、私がまだ父になるのに怖気づいていまして」
「なんで? こんな良い家住んでるのに」
「家も資産も全て妻のものです。それに対して私は下っ端執務貴族。子供に誇れる人間になってからと思っています」
「はー……なかなかストイックというか、自分に厳しいというか」
この人本当、普通に話してる時は滅茶苦茶ちゃんとして見えるんだけどな。
雑談も一息ついたのでフリーデ将軍は立ち上がると、「こちらへどうぞ」と屋敷を案内してくれる。
俺は彼女の後について屋敷の奥へと進む。廊下を抜け、鉄製の扉の前で足を止めると、彼女は腰から鍵を取り出し、3つも取り付けられているロックを外した。
扉が重々しく開くと、その先には厳重な保管室があった。石造りの壁に囲まれた室内はひんやりとしており、中心には頑丈なガラスケースが鎮座している。その中には、一振りの聖剣——いや、竜の首が収められていた。
「なんじゃこりゃ?」
「聖剣です。ロドリア遺跡より発掘されたもので、正式名称はドラゴンヘッドカリバー。聖剣という名がついていますが、形状は竜頭型の盾です」
「これ盾なのか」
「はい、裏側に持ち手があります。直径約60センチ、材質はクロムオリハルコンで出来ています」
ガラスケースに入れられたドラゴンヘッドカリバーは、まるで竜の頭蓋骨を模しているように見える。
目の部分や頭の部分にポッカリと穴が開いており、まるで竜の角や瞳に相当する何かが欠損しているようだ。
言葉にはできないが、ただの武具とは思えない威圧感を感じる。
「竜頭骨の盾の聖剣か」
骨の盾の聖剣って意味がわからないが、杖の聖剣があるので今更である。
「神竜ファフニールの加護を受けた盾は、如何なる攻撃も弾き返すと言われています」
フリーデ将軍はそう言って、静かにケースの表面に手を置いた。その横顔には誇りと責任が滲んでいる。
「……一応確認させてもらっていい?」
フリーデ将軍は「勿論」と言って、ガラスケースに施されている魔術ロックを解いた。
彼女は慎重にガラスケースの蓋を開ける。俺は顕になった盾に、ゆっくりと手を伸ばし慎重にドラゴンヘッドカリバーを両手で持ち上げる。
「おぉ、これが聖剣(盾)ものすごい力を……」
——感じない。
おかしい、さっきまでガラスケース越しに凄そうだと思っていたが、いざ触ってみると単なる装飾品を手にしているような、そんな感覚だった。
「ん~? ……おかしいな」
俺が盾をまじまじと観察していると、フリーデ将軍は不安になったのか「どうかなさいましたか?」と聞いてくる。
「いや、これ……」
『偽物だね』
聖剣からナハトの声が響く。どうやら彼女も、この何の力も感じない竜頭盾が本物の聖剣でないと気づいたようだ。
「——これ、偽物じゃない? なんかすんごい軽いよ」
本当にハリボテ持っている気分。とてもクロムメタルで出来ているとは思えない。
俺が指摘すると、フリーデ将軍の表情が凍りついた。
「そんなバカな……」
彼女は急いで俺の手から盾を受け取り、まるで己の目を疑うように確認する。
「じぇーんじぇん力を感じない。ってか本物の聖剣なら、俺の王家の紋章が反応するはず」
「……まさか……。確かにここに保管していたはず……」
冷や汗を滲ませ、フリーデ将軍は蒼白になった顔で俺に向き直る。
「申し訳ございません。す、すぐに確認いたします……!」
彼女はそう言うなり、足早に保管室を出て行った。
俺は偽の聖剣(盾)を見つめながら、渋い表情を浮かべる。
一体、誰が盗んだんだ? 普通の貴族の屋敷ならいざ知らず、ここは帝国軍将軍の家だぞ。
泥棒が入るにしてはリスクが高すぎる。
結局聖剣の行方はわからず、フリーデ将軍から明日必ず報告を致しますと言われ、今日のところは砦へ引き返すこととなった。
コメント
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第71話、読み終わりました……! 将軍の家がすごく立派で、旦那さんのトニーが奥さんにたしなめられてるの、ちょっと微笑ましかったです😂でも、あの聖剣が偽物だったってオチ、めっちゃゾクッとしました……。あれだけ厳重に保管してたのに、まさかすり替えられてるなんて。将軍の顔色が一瞬で凍る描写、すごく印象的でした。本物はどこにいったんだろう……続きが気になります! ありんすさん、重厚な謎をありがとうございます。また読みにきますね🌙