テラーノベル
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その夜——。
フリーデは屋敷の警備、執事、メイド、全員を呼び出して一人ひとりに事情聴取を行っていた。
メイドたちは、盾が偽物にすりかわっていたということは知っており、自分たちに嫌疑が向けられていることもわかっている。
「あの盾を外に出すには、厳重な屋敷の警備をくぐりぬけて、合鍵を作れないロックキーを外し、ガラスケースの封印魔法を解除するしかありません。そのどれもが外部犯には不可能なことばかりです。疑いたくはありませんが、あなたたち以外に犯行は不可能なんです」
普段冷静なフリーデだが、言葉の速さからかなり動揺していることが誰の目にもわかった。
「私はこの件の責任をとって騎士団を辞めることになる。今ならば、私の首と一緒に謝罪しても構いません。正直に話して下さい。もし黙秘を続けるのであれば、国宝を盗み出したとして死罪は免れません。お願いします、早く出て下さい」
彼女が焦るのも無理はなく、聖剣を盗まれ回収不能なんてことになってしまえば、アイゼンヴェルグ家全体の信用失墜。100年近く、帝国の右腕として騎士団を率いてきた由緒ある家系の没落。
しかし聖剣を回収できれば、なんとか自分の首だけで納められるかもしれない。
「このまま見つからなければ、あなたたちは帝国の厳しい尋問を受けることになる。一生帝国保安部の監視がつくことになるんです。お願い、今のうちに話してほしい」
すると屋敷のメイドが怯えた表情で「旦那様のことです」と告げる。
「……奥様。聖剣は、すでに質に出されていたとのことです」
フリーデの体が凍りついた。
「……今、なんと?」
「旦那様が……しばらく前に、ある道具屋へと……」
それ以上は聞くまでもなかった。フリーデは踵を返し、怒りを噛み殺しながら寝室へと向かった。
扉を勢いよく開けると、そこには椅子に座り、肩をビクつかせるトニーの姿があった。彼は何かを察したのか、フリーデの顔を見るなり目を逸らした。
「……トニー」
静かな、だが酷く冷え切った声だった。
「ど、どうかしたのかな?」
シラを切った瞬間、フリーデは彼の胸ぐらを掴んだ。
「聖剣を返して! あれは帝国にとって重要なものなのですよ!」
つとめて冷静に話そうとしているが、フリーデの全身からは怒りがにじみ出ている。
トニーは怯えたように目を瞬かせ、言い訳を探すように口を開く。
「フリーデ、違うんだ……! 私は、その……返すつもりだったんだ。ただ、ちょっとだけ、金が必要で……!」
「“ちょっとだけ”……?」
フリーデの声が震える。だが、それは怒鳴りたい衝動を必死に抑え込んでいるが故だった。
「一体何に使ったの!? お金ならあるでしょう!?」
「それが……その……ギャンブルに……」
ギャン、ブル? まさかそんなありきたりな理由で聖剣を盗んで売ったというのか? フリーデの表情が「嘘でしょ」と曇る。
「あなた……やめたと言いましたよね!? もう二度とギャンブルはしないと誓いましたよね!?」
トニーは言葉に詰まり、視線を泳がせる。
「……それは、その……」
「答えなさい!!」
バンッ! と机を叩く音が響いた。
「やめて……なかったんだ」
「嘘をついていたのですね……? しかも、国の宝を勝手に売り払ってまで……」
フリーデは深く息を吐き、震える手で額を押さえた。
「一体いくら使ったのです? 借金なら私が出すのに」
「いや、その……」
「この期に及んで隠し事しないで下さい!」
「3……億くらい……負けてる」
桁違いな損害額に、フリーデは呆気にとられる。精々300万、度肝抜かれたとしても1000万くらいだろうと思っていたのに、まさかの3億。
「えっ? そのお金は一体どこから来ているの?」
「君の……資産と、アイゼンヴェルグ家の資産をちょこちょこと抜いて……」
「ちょこちょこで3億なんか盗れないわよ!? どういうお金の使い方してるの!?」
「その……一晩で200万負けるとかも結構ザラで。取り返さなきゃと思って、カジノのVIPゲームでレートの高いギャンブルをしたら、そこでも負けて……」
典型的なギャンブル中毒者の負け方を聞いて、フリーデは腰から砕け落ちる。
「さすがにアイゼンベルグ家のお金を抜くのはバレると思って、聖剣を売りに出して補填はしたんだ……」
「それならまだ家のお金を抜いたままにしてくれる方がマシだった。あれは国の物なのですよ!? 国の資産! 王の所有物を盗んだのと一緒なのですよ!?」
「…………」
「しかもこのことを発見したのが王子なのです! 私やあなただけじゃなく、アイゼンヴェルグ家全員が処刑されてもおかしくないことをしでかしているんですよ!」
怒りだけではなかった。そこには失望が滲んでいた。愛していた男が、自分を欺き、国家の財産まで犠牲にした。その事実が、何よりもフリーデを打ちのめした。
トニーは彼女に縋るように手を伸ばした。
「フリーデ、私も頑張って取り返そうとしたんだ。だけど少し熱くなってしまって……。いやあそこで7を引けなかった私が悪いんだけど……」
「そんなの理由になると思っているの!? 最低でも私は騎士団をクビ、父上も恐らく将軍職を降ろされる。私がアイゼンヴェルグ家を終わらせることになるのよ!」
「泣かないでくれフリーデ……頼むよ、二人なら乗り越えられ——」
「触らないで!!」
フリーデは鋭い視線を向け、トニーの手を払いのけた。
もう、信用できない。
そう確信した瞬間だった。
フリーデは荒れた息をつきながら、冷静になろうと努めた。だが、どうしても怒りが収まらない。
思い返せば、最近のトニーはやけに家事を熱心にこなしていた。朝食を作り、洗濯をし、掃除まで申し出ていた。それを見て、フリーデは婿養子になって、きっと良い夫であろうと努力しているのだろうと思っていたが——違った。
すべてはただの自己保身。自分にヘイトが向かないようにするために、家庭の仕事をこなしていただけ。
フリーデはトニーを睨みつけた。
「だから、最近はやたらと家事をやっていたのね……。自分の罪を誤魔化すために」
「ち、違う! 私は、本当に——」
「言い訳は聞きません!」
フリーデは振り返ると、さっさと部屋を出た。今はトニーと口をきく気にもなれない。それよりも、聖剣(盾)を取り戻すことが最優先だった。
彼女はすぐに情報を集め、夫が聖剣を質に出した先を突き止めた。そして、その盾を買い取ったのが、カジノのオーナーであり、エスタ市長でもあるドリコであることを知る。
「……ドリコ叔父上が?」
驚きとともに、フリーデは安堵の息をついた。
ドリコは父バルト将軍の弟——つまり、フリーデの叔父にあたる人物だ。彼は商才に長け、ギャンブルと交易で財を築き、今ではエスタ市の市長にまで上り詰めている。金に汚い噂も絶えないが、家族に対しては情が深い人物だ。
きっと、話をすれば聖剣(盾)を返してもらえるはずだ。
コメント
1件
第72話読み終わったよ〜〜!!😭💦 まさかトニーが聖剣を質に出してたなんて…しかもギャンブルで3億とか頭おかしいって!!フリーデの「触らないで!」のとこ、めっちゃ切なかった…あんなに愛してた相手にここまで裏切られるの辛すぎる😢 でも最後にドリコ叔父さんが盾を買ったってわかって、ちょっと希望見えた!次が気になる〜!!
ありんす
1,323
#殺し屋