「それに私、もう二十六歳ですよ? 尊さんみたいなハイスペ男性なら、幾つでも結婚相手が見つかるでしょうけど、女の結婚は若いほうが有利なんです。本当は年齢に縛られたくありませんし、何歳でも結婚していいと思います。……でも健康な子供を産める確率が高い年齢は決まっています。私は結婚したいし子供もほしいですし、時間を無駄にしたくないんです」
彼は納得したように何度か頷く。
「尊さんが私と結婚してくれるなら別です。でも違うでしょう? あなたは縁談を回避したいから、一時的に付き合ってほしいだけ。短期間恋人のフリをするだけなら付き合いますよ? でも継続的な付き合いを求めているなら、マイナスにしかなりません」
私はそこまで言って大きな溜め息をつき、食器を下げにきたスタッフに会釈をする。
尊さんはしばらく私を見つめていたけれど、小首を傾げてとんでもない事を言ってきた。
「じゃあ、結婚するか?」
「『じゃあ』ってなんですか!」
私はとっさに突っ込む。
「結婚ですよ? 『なんちゃって恋人が無理なら結婚するか』って軽々しく言える事じゃないんです。何考えてるんですか。頭スッカラカンですか」
今度こそ本当に彼の考えが分からなくなった私は、苛立ちまで感じ、あまりのムカつきに暴言を吐いてしまう。
私は「はーっ」と荒々しく溜め息をつくと腕を組み、肘を指でトントンする。
すると尊さんは水を一口飲み、のんびりとした口調で言った。
「まじめに言ったつもりなんだけど」
はぁ……。
なんだかこの人を相手にしていると、一人でカリカリしてる自分が馬鹿みたいに思える。
尊さんは溜め息をついた私を見て、ゆったりと脚を組んで笑う。
「結婚を大切に捉えているのは分かる。お前の言う通り、結婚は転機だし、相手によってその後の生活、人生が大きく左右される」
彼の言葉を聞き、私はコクンと頷く。
「でも結婚している人が全員、ドラマみたいなプロポーズを経て結婚してる訳じゃない。どれだけ金をかけた結婚式、新婚旅行をしても、別れる人は別れる」
「……確かにそうですけど……」
世の中には色んなカップルがいるのは分かっている。
幸せな結婚をしてハッピーエンド……は、架空の世界の話で、現実ではそのあとに生々しい生活が続いていく。
「結婚だって色んな形があるんだよ。親に決められた結婚、お見合い、マチアプ、紹介、デキ婚。……今は授かり婚って言うんだっけ。結婚雑誌に載ってるテンプレートなキラキラ婚がすべてじゃない。入り口はどんな形でもいいんだ。朱里は結婚に何を求めてる?」
尋ねられ、私は少し考える。
『幸せな結婚がしたい』というキラキラした想いは、昭人にフラれると共に消えてなくなった。
だから〝結婚に求めるもの〟と言われても、明確なビジョンがないのですぐ答えられない。
まるで一度諦めた夢を、もう一度探っているような感覚だ。
それでも、今の自分に言える事を答えた。
「……落ち着きたいです。フラれるかもって心配せず、ずっと自分を愛してくれる人と生活できる安心感がほしいです。……こういう事を言ったら『打算的』って言われそうですけど、住まいや家計も助け合って、独身の今より安定した生活がしたいです」
「金は生きていくために必要なものだから、俺は打算的と思わない」
「……ご理解、ありがとうございます」
お金面を条件に挙げ、『図々しいって言われるかも』と不安になったけれど、責められずにホッとする。
「嫌みな話、俺はまぁまぁモテる。その気になれば、多分女性をお持ち帰りできると思う」
「凄いですね」
そういう話を聞くと、ヒヤリと冷たい対応になってしまう。
「そんな顔するなよ。……やろうと思えばできるけど、やらないって言いたかったんだ。この歳になって遊び歩くのは格好悪いよ。同級生なんてもう子供がいるしなぁ……」
そういって尊さんは遠くを見て、自虐的な笑みを浮かべる。
その時パスタが運ばれ、私はフォークを手に取り、「いただきます」と言って香りのいいキノコとチーズが掛かったクリームパスタを食べ始めた。
「話は戻るけど、結婚のきっかけにこだわらなければ、そこそこ幸せな結婚生活を約束できるけど」
尊さんは一口パスタを食べ、私に言う。
「……愛情のない結婚をするんですか?」
半ばうんざりした私は、パスタを食べながら返事をする。
「俺たち次第じゃないか? 朱里が俺にいい感情を抱いてないのは分かるけど、良く見てもらえるように努力する。まだ元彼に未練があるのも分かってるし、今すぐ結婚しようって言ってる訳じゃない。とりあえず一か月、三か月、半年、一年と小さいゴールを設けて、段階的に判断していかないか?」
具体的な方法を提示されると、少し前向きに考える自分がいた。
……ちょろいなぁ……。
コメント
2件
ウンウン....(*-ω-)♪ ちょろくても良い!👍️ 結婚を前提にして、お付き合いスタートしよ~ぅ♥️
ちょろくていいっ👍👍👍