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#sxxn
麗華

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ラウールからランチの誘いがあったのは、ロンドンに行く直前だった。
アンバサダー就任のお祝いしよ。
今回は俺に奢らせてね。
そんなメッセージに、ラウールの成長を感じる。
らうも大人になったんやなぁ…そんなことを思いながら、楽しみにしている、と返信をした。
ロンドンでメンバーへのお土産とは別に、ラウール個人へのお土産を追加で購入し、康二は飛行機に乗り込んだ。
銀座で待ち合わせて、二人でお店に向かう。
大通りから一本裏道に入れば、存外静かで昔ながらのお店もたくさん並ぶ。
見落としそうな小さな看板を目印に、暖簾をくぐると女将さんが「お待ちしておりました」と爽やかな笑顔で迎えてくれた。
こちらへ、と案内されたのは、六人程度が座れそうなカウンターのさらに奥。
小さなお座敷の個室だった。
さりげない床の間には、秋を先取りったススキと竜胆が美しく生けられていた。
まだ夏の名残がある夜なのに、そこだけ季節がひとつ先へ進んでいるようだった。
「よう、こんなええ店、知ってたなぁ」
暖かいおしぼりで手を拭きながら、関心したように声をかける。
「ふっかさんにね。一度連れてきてもらったんだよね。」
なるほど、ふっかさんか。
ああ見えて、ええ店知ってるもんなぁ。
「今日は全部俺が奢るからさ。なんでも好きなの頼もうよ。」
とりあえず、ビールでいい?そう言って、引き戸を少し開けて、女将さんに声をかける。
ここのおすすめは魚なんだよ、とか、珍しい一品ものないか、なんてたわいもない話しをしていると、扉がノックされて、さっと瓶ビールとグラスが差し出された。
つい、いつもの癖で康二が受け取ろうとすると、ラウールに止められた。
「今日の主役は康二くんなんだから。そういうのは、俺がやるの」
そういって、ラウールが受け取り、グラスを並べる。
ほら。グラスを俺に持たせて、ビールを注いでくれる。
ちょうどいい泡とビールの配分は、自身が飲み慣れている証拠だ。
ラウールは自身の分も注ぎ終わると、そのグラスを俺の目の前に差し出した。
「じゃあ、改めて。こーじくん、アンバサダー就任おめでとう」
「なんか、照れるやんなぁ。」
「たまにはいいでしょ。」
乾杯、とグラスを合わせる。
今日のビールは普段よりもさらに美味しく感じた。
ラウールは予めおまかせコースを頼んでおいてくれたようで、先付けから少しずつ運ばれてきた。
個室だからだろう、女将さんも店主も程よい距離感で、時折様子は見にきてくれるが、基本的には俺たちには干渉せず、ちょうどいいタイミングで全て運ばれてきた。
おかげで、俺たちは存分に話しをすることができた。
ショーのこと。
そこで出会ったたくさんの人々。
ロンドンの街並。
美味しい食事。
それからお土産のこと。
話題は次から次へと変わっていった。
どれも特別な話ではない。
けれど、二人ともよく笑った。
康二が何かを話すと、ラウールが楽しそうに聞いている。
ラウールが話すと、康二が少し身を乗り出して聞いている。
そうしているうちに、時間はいつの間にか過ぎていった。
「せや。俺、らうにお土産買うたんよ。」
そういって、紙袋を差し出す。
「えー、嬉しい。なんだろう?」
「ハロッズで売ってたドバイチョコレート。今、バリ人気らしいで?」
「うっわ!マジ?美味そう…」
ラウールは、本当に嬉しそうにそれを受け取ってくれた。
その顔を見て、康二は少しだけ安心した。
ラウールは、センスの塊みたいな男だ。
服のことはもちろん、それ以外のことにもよく知っている。
一番年下なのに、何でもよく気がついて、人への気配りも自然にできる。
たぶん、それは教育係でもあり、兄のような存在でもある目黒と過ごしてきた時間の賜物なのだろう。
しばらくして、ラウールが席を立った。
「ちょっとトイレ行ってくるね」
そう言って個室を出ていく。
たぶん、それだけじゃない。
きっとその足で会計まで済ませてくるつもりなのだろう。
最初からそのつもりで、このタイミングを見計らっていたに違いない。
そして、ラウールが戻ってくるまでのあいだに、スマートフォンを手に取った。
今日のことを、ブログに残しておこうと思ったからだ。
ラウールが初めて奢ってくれて、とても嬉しかったこと。
たいしたことではないのかもしれない。
でも、こういう小さな出来事ほど、あとになって思い出すものだ。
いくつか言葉を選びながら文章を打ち、最後にマネージャーへ送信する。
ほどなくして、扉が開いた。
「お待たせ」
戻ってきたラウールが、何でもない顔をして立っている。
やっぱり、会計も済ませてきたらしい。
康二はスマートフォンをしまった。
「そろそろ出よう?」
「おん、らう、今日はご馳走さまでした。」
短い返事を交わして、二人は席を立った。
秋の気配は、来たときよりも少しだけ深くなっていた。