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辺境伯爵の次男坊であるグレンシスは、貴族であり、ウィリスタリア国の騎士の模範となるべきエリート騎士でもある。


そんなグレンシスは、幼いころから、女性は守るべきものと教育を受けていた。騎士となってからは、更にそう思う気持ちが強くなった。


だから、面倒だと思う小娘にさえ、荷物を持たせてしまうと、とても苦痛を覚えてしまう。


「……ちっ。それを貸せ」


女性への奉仕を選んだグレンシスは、小さく舌打ちをして、ティアが抱えている籠を奪い取る。


「え?……あ……あ」


目にもとまらぬ速さで両手が空いたティアは、驚きすぎて瞬きを繰り返すことしかできない。


屋敷の主人が、リネンの入った籠を持って歩いているのは、とてもとてもとてもとても珍しい光景で、前代未聞である。


その光景を、運悪くメイドの一人が見てしまい、こう解釈した。


『わざわざ自分の手でリネンを運んでさし上げるなんて……よっぽど、ご主人様は、あのお嬢さんが気に入ったのね。うふふっ、皆に教えなくっちゃ!』


この勘違いが、その後、吉と出るか凶と出るかは、今の二人にはわからない。





「着いたぞ」


片手で籠を抱えて、反対の手で扉を開けたグレンシスは顎でティアに入室を促した。


グレンシスがティアに用意した部屋は、ベージュピンクの壁紙を基調とした、女性向けの可愛らしい部屋だった。


部屋の調度品は猫足の家具で揃えており、ベッドカバーは淡いピンク地に山吹色の小花が散っており、なぜか枕元には、熊のぬいぐるみが置いてある。


家具と壁紙はともかく、ベッドカバーとぬいぐるみは大急ぎでメイドが用意したことにグレンシスは気付いたけれど、あえて口には出さない。


「とても使用感がありますね。それに造りが随分と単純なんですね」

「……っ」


取りようによっては嫌味にも聞こえるティアの言葉に、グレンシスは何が言いたいんだと詰問しようとした。


けれど、ティアの眼には嘲りなど欠片もなく、物珍し気に部屋を見渡している。


翡翠色の瞳は、まるでピクニックに出かけて、初めて湖畔を目にした子供のようにキラキラと輝いている。


「……誉め言葉として受け取っておく」


唸るようにそう言ったグレンシスの言葉は、残念ながらティアの元には届かない。


人の話を聞け!と、グレンシスは吐き捨てながら、ティアの元に近づく。


「よく気付いたな」

「へ?」

「マーサの腰の事だ」

「あー…」


ポリポリと頬をかきながら、ティアは視線を逸らした。


移し身の術を使うティアは、人の痛みに敏感だ。だがそれを伝えていいのかわからず、なんと答えていいのかわからない。


隠すことではないかもしれないが、過去に自分を救ったのがこんな小娘だと知ったら、この人はどう思うのだろう……。


そんな不安がよぎってしまうし、嫌われていることは十分わかったから、これ以上、嫌な顔を見るのは御免こうむりたい。


などという気持ちを口に出せないティアに、グレンシスは少しだけ悔しさを滲ませる。


「使用人には不便がないようしていたが、俺は気付くことができなかった」

「あ、えっと……私も、たまたま気づいただけなんで……」

「おい、まさか俺を気遣ってるのか?」


信じられないといった顔をするグレンシスだが、すぐに別の表情になった。


「さて、王女が出立するのは10日後だ。こうなってしまったら、仕方がない。それまでここを自分の部屋だと思って過ごしてくれ。あ、侍女をつけるか?」


一変して柔らかい口調になったグレンシスの言葉に、ティアは首を横に振った。


「私はお姫さまでもなければ、貴族の令嬢でもないです。身の回りのことは自分でします。それに私のお仕事は、王女様の輿入れのお供をすることです。騎士様にお客様扱いされることではありません」

「……なるほど。わかった」


心遣いを無下にてしまい小言が飛んでくると思いきや、グレンシスはあっさりとティアの主張を受け入れた。

エリート騎士は、移し身の乙女を甘やかしたい

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