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「デューク様、本日のスケジュールは分単位で埋まっております。午前中は属領の収支報告書の精査、午後は騎士団の演習視察、夜は隣国の大使を招いた晩餐会。その後には……」
側近のセドリックが読み上げる予定表を、俺は冷徹な眼差しで遮った。
目の前には、俺の身長ほども積み上がった羊皮紙の山。
……遅い。あまりにも遅すぎる。
この世界の事務処理は、まるで昭和初期の役所か、あるいはFAXが現役で動いている限界集落の自治体だ。
「これじゃリリアーヌとティータイムを楽しむ時間が1分もねぇだろうが。俺のライフワークバランス(リリアーヌ成分)が著しく損なわれている」
「は? 殿下、何を仰って……リ、リリアーヌ様との時間は公務の合間に、その、月に一度くらいは……」
「月一なんて少なすぎる」
俺はネクタイを緩め、袖をまくり上げた。
かつて、納期直前のデスマーチで3徹した末に、脳内麻薬(エンドルフィン)だけでコードを書き殴ったあの狂気。
培った「神速のブラインドタッチ」と、エロゲーの全ルート回収で鍛えた「フラグ管理能力」
そしてクソ株のチャートを読み取ってきた「数値の違和感察知能力」が、今、異世界で火を吹く。
10:15───業務改善(BPR)開始
「まず、この冗長な報告書は廃止だ。ポエムか? これは。全部フォーマット化にする。結論、理由、対策を3行でまとめさせろ。」
「しかし、これまでの伝統が……」
「伝統で飯が食えるか。それから、この二重、三重の検印も無駄だ。承認フローを簡略化する。権限を下に委譲しろ。責任は俺が取る」
俺は羽根ペンを猛烈な勢いで走らせる。
カリカリという音が、もはや連射力自慢のゲーミングキーボードのような打鍵音へと変わる。
「あと、この収支計算……12ページ目の3行目。ここ、500ゴルド合わないな……横領か計算ミスか、30分以内に突き止めてくれ。それと18ページの物流コストの推計、係数が甘い。昨今の天候不良を織り込んでいない。やり直しだ」
「え、ええええっ!? い、今チラッと見ただけですよね!? 魔法ですか!? 鑑定スキルですか!?」
「いいや『地獄のデバッグ作業』で鍛えた眼力だ」
驚愕する側近を尻目に、俺は次々と書類を「完了」のボックスへ放り込んでいく。
社畜時代、理不尽な上司に叩き込まれた「PDCAサイクル」と「タスク管理」が
まさか異世界で最強の武器になるとはな。
12:00───全公務終了
本来なら丸三日はかかるはずの公務が、わずか2時間弱で、すべて「完了」のスタンプで埋め尽くされた。
「よし、これで午後は全休だ。リリアーヌの元へ行くぞ」