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「いえ、まだ騎士団の視察が残っております! 兵士たちの士気に関わります!」
「あんなの『異常なし、訓練継続中』って報告書に書いてあっただろ。俺が行って偉そうに演説するより、彼らに昼寝の時間でも与えた方がよっぽど士気が上がる。全兵士に通達しておけ」
「それより、リリアーヌへの手土産だ。リリアーヌが好きな、この街で一番人気の限定モンブランを予約しておいたから、きっと喜ぶぞ」
「デュ、デューク様が…?一体どうされてしまったと言うのです?!!」
困惑し叫ぶセドリックを無視して、俺はジャケットを羽織る。
14:00 ─────王宮の庭園にて
眩い午後の陽光が、手入れの行き届いた王宮の庭園を黄金色に染めている。
色とりどりのバラが咲き誇り、甘い香りが風に乗って鼻をくすぐるが、俺の視界には一人の少女しか映っていない。
白磁のような肌に、夕陽を溶かし込んだような美しい髪。
そこで、所在なさげにポツンと一人
どこか寂しげに紅茶を啜っていたリリアーヌは、背後に現れた俺の気配に気づき
持っていたティーカップを指先から滑らせそうになるほど驚愕の表情を浮かべた。
「な、ななな……なぜここにいらっしゃいますの!? 貴方は今日、隣国の大使との晩餐会や、騎士団の視察で深夜までお忙しいはずでは……っ」
彼女の驚きはもっともだ。本来のデュークなら
今頃は鉄面皮で書類の山と格闘し、騎士たちの訓練を冷徹な目で見下ろしていたはずなのだから。
だが、今の俺を動かしているのは「義務感」ではない。
「推しへの情熱」だ。
「君に会いたすぎて、仕事を音速で終わらせてきた。残業は悪だ、リリアーヌ。そして、君を一人にするのはもっと大きな罪だ」
前世、サービス残業の果てに命を散らした俺からすれば
愛する人を放置してデスクにしがみつくなど万死に値する。
俺は彼女の戸惑いを置き去りにしたまま、淀みのない足取りで距離を詰めた。
「なっ……な、何を……」
呆然とする彼女に対し、俺は貴族の作法など知ったことかとばかりに
向かいの席ではなく、あえて彼女のすぐ隣に腰を下ろした。
至近距離。
あまりに近すぎて、彼女が使っている石鹸の香りと
リリアーヌ自身の甘い体温が混ざり合った香りが、ダイレクトに俺の鼻腔を直撃する。
やばい、これだけで心拍数が爆速のBPMを刻み始めた。
「リリアーヌ、そのリボン、俺がこの前贈ったやつじゃないか。……着けてくれたのか?」
彼女の艶やかな髪を束ねているのは、俺が公務の合間に執念で選んだ、最高級のシルクリボンだ。
「っ……! こ、これは、たまたま、本当にたまたま引き出しの一番上にあったからですわ!き、今日は他のリボンが洗濯中だっただけで…勘違いしないで頂戴、この仕事中毒!」