窓に強い風が吹きつける。その風には、冬の訪れを知らせる冷たさがあった。
今日は、定期的に診察をしてその結果を説明されることになっている。
最近では、もう別れがそこまで来ているのを肌でひしひしと感じる。
今日は、なんと医師に言われるのだろう。
どんな事を言われても受け止める覚悟だけして、病院に向かった。
💛目黒さんのご家族の方、こちらへどうぞ。
💚はい。
顔を合わせると、いつも軽く雑談をしてくれる岩本の唇は、今日は固く結ばれている。その表情からは、何を考えているのか全く読み取れない。
💛先日の診察の結果ですが、現時点の医療では、手の施しようがなく、残念ですが目黒さんは…
💚…っ!!
最後の方は目の前が真っ白になって聞こえなかった。
信じたくない。今まで感じていた不安を、こうして信頼していた人に突きつけられると、何も考えられなくなってしまった。
視界がぐにゃりと歪む。それが涙なのか、何なのかもわからない。
俺は、蓮のいない世界で、どうやって生きていればいいんだろう。
💛…さん、あべさん!…阿部さん!!
💚あ…
気づくと、隣に岩本が居た。
💛大丈夫ですか?今、気を失って…
💚大丈夫です…
💛本当ですか。阿部さんもお疲れでしょうが、体調には気をつけてくださいね。
💚はい。ありがとうございます…
また視界が歪んだ。今度は涙なのか、生ぬるさが頬に流れた。
俺の様子を見守っていた岩本は、そっと隣に来て震える俺の背中を撫でた。
💛つらい時は思いっきり泣いていいんですよ。ひとりで全部抱えこまないで。僕たちが力不足なせいですから、全部僕にぶつけてください。
💚ぶつける…?
💛はい。ずっと目黒さんのことを支え続けてきた阿部さんもずっと辛かったでしょう。その気持ちを、全部。
💚…ありがとうっ、ございます…
それから俺は、泣きじゃくりながら岩本に全てを話した。
突然に余命わずかだとを告げられたこと。俺は蓮に何もしてあげられなかったこと。そのせいで蓮はやり残したことがたくさんあること。
ずっと背中をさすり続けてくれた岩本は、俺の話を最後まで聞くと、柔らかに微笑んだ。
💛聞かせてくれてありがとう。全部があなたのせいだなんて、そんなことは全く無いです。おふたりは誰よりも頑張っていますよ。もっと自分たちを褒めてあげて。
岩本は、何か思い立ったのか俺の側を離れた。
戻ってきた彼の手には、ペンと紙束が握られていた。
💛目黒さんは、やり残したことがたくさんあるとおっしゃっていたんですよね。だったら、今からやってみましょうよ。
💚えっと…?
💛体が不自由になった今でも、出来ることはあるはずです。後悔しないうちに、やりたいことをさせてあげましょう!
💚…はい!
心が震えたような感覚になった。そうだ、俺は蓮に後悔させたくないんだ。人生なんて皆一回きりだ。
やりたいこと、させてあげなきゃ。
それから病室に行って、蓮に提案した。
🖤…いいの?
💚何が?
🖤いや、なんか、意外だなって。亮平のことだから、俺のこと心配してだめって言いそう。
💚そんなこと言わないもん。
🖤ごめん。嘘だよ。
でも、と蓮は嬉しそうに笑った。
🖤亮平は俺のこといつも心配してくれてるじゃん。俺はそれが、いつも嬉しいんだ。だから最近は、それだけでいいかもなって思ってた。
💚そんなことないでしょ。やりたいこといっぱいあるくせに。
🖤あははっ、そうだね。
蓮は少し出にくくなってしまった言葉をひとつひとつ、丁寧にゆっくりと紡いだ。
岩本に提案されたのは、蓮の願いを紙に書き出す「やりたいことリスト」を作ること。
蓮は心から嬉しそうに紙に希望を綴っていった。
俺はそんな姿を見て、胸にぽっかりと空いていた穴が埋まるような、そんな気持ちになった。
久しぶりに、ふたりの心に光が差したような気がした。
次回・第6話 幸せ
コメント
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あべちゃん可哀想😭 めめ大丈夫かな?(´;ω;`)