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第4話:都市の影
目を開けると、そこは無人の都市だった。
ひび割れたアスファルト、立ち並ぶビル、割れたガラスに反射する夕陽。風が吹き抜け、紙屑が舞い、音ひとつない。
遠藤 蓮は汗ばむ手でポケットを探り、仲間を確かめた。
相原 凛は包帯で腕を固く巻き、痛みに顔を歪めながらも立っている。
高城 翔は肩幅の広い体を反らし、拳を握り締める。
真田 玲央は丸眼鏡の奥で都市の地図を描くように視線を動かし、森下 瑠衣は黒いスポーツウェアの袖をたくし上げ、コンクリートを踏む音を極限まで小さくした。
「……誰かいる」
ビルの影から現れたのは八坂 圭吾。細身のスーツを着こなし、額に汗ひとつ見せずに微笑んでいた。
「皆さん。無駄に血を流すのはやめましょう」
落ち着いた声が、ひどく説得力を持って響く。
「ここはゲーム。勝ち残るには合理的な選択が必要です。今ここで無用な争いをすれば、あなた方は弱体化するだけだ」
その言葉に、数人の孤立者が頷いた。
木村 直美、主婦姿の地味な服装の女が震えながら「……協力したほうが……」と呟き、岸本 直人、茶髪で明るい大学生も「そうだよ、殺し合いなんて……」と同調する。
だが空気を裂くように、榊 美沙が歩み出た。
派手な化粧に茶髪のポニーテール、タンクトップから覗く肩は逞しい。
「いい加減なこと言うな。裏切られたら誰が責任取るんだ?」
その隣で、矢吹 隼人が拳を鳴らす。
短髪で精悍な顔立ち、ボクサー特有のしなやかな体躯。両の拳には古傷が刻まれている。
「俺は殴るほうが性に合ってる」
次の瞬間、矢吹の拳がコンクリートの壁を砕いた。轟音と粉塵に誰もが息を呑む。
「見たか? 俺に逆らえばこうなる」
緊張が爆発した。榊と矢吹が威圧で群衆を支配し、八坂は冷静な笑みで状況を操る。
翔が一歩前に出た。
「やめろよ……俺たちは仲間を守るんだ!」
拳と拳がぶつかる。
矢吹の右ストレートが翔の頬を抉り、汗と血が飛沫のように散る。翔も左フックを返し、顎を打ち抜いた。骨が軋み、矢吹が一瞬たたらを踏む。
榊がその隙に凛へ迫る。
「弱った女から潰すのが一番効くんだよ」
鋭い視線。だが凛は腕を押さえながらも後退せず、包帯の隙間から再び血が滲む。
森下 瑠衣が跳んだ。アスファルトを蹴り、榊の顎に膝蹴りを叩き込む。
乾いた音とともに榊の頭が弾かれ、鮮血が宙に飛んだ。
だが八坂の声が再び響く。
「見ましたか? 結局、争いは避けられない。だからこそ“今ここで誰を生かすか”を決めるべきです」
言葉が人の心を侵食していく。恐怖と混乱の中、小さな同盟は音を立てて崩れていった。
蓮は理解した。
――この都市の影で戦うのは、拳や刃だけじゃない。言葉そのものが武器になるのだ。