コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第5話:常夜の恐怖
目を開けた瞬間、闇に呑まれた。
そこは夜しか存在しないフィールド。月も星もなく、黒い霧が漂い、吐息すら飲み込まれる。
唯一の救いは、参加者の手元にひとつずつ支給されたランタンだけだった。
遠藤 蓮は小さな灯りを胸の前に掲げる。黄色の光が半径数メートルだけを照らし、仲間の顔を浮かび上がらせた。
相原 凛は包帯に染みた血を押さえ、水色のシャツが淡い光に滲んでいた。
高城 翔は汗に濡れた髪をかき上げ、顎に打撲の痕を残しながら構える。
真田 玲央は眼鏡を反射させ、都市での経験から「光を奪われた者は終わりだ」と短く言った。
そして森下 瑠衣――ショートカットに黒いスポーツウェア。闇に溶け込む体勢をとり、呼吸を限界まで落としていた。
闇の奥から声がした。
「光をよこせ……」
姿を現したのは堂島 龍一。金髪リーゼント、革ジャンの巨体がランタンの灯りを覆い隠すように歩み寄る。
「この明かりは俺が全部もらう」
矢吹 隼人が続いた。短髪で鋭い目を光らせ、拳を構える。
「暗闇じゃ速い奴が勝つ。光を持たねぇ奴から殴り殺す」
二人の影が光を遮り、闇が迫る。
「来るぞッ!」
翔が叫んだ瞬間、堂島が突っ込んだ。巨腕がランタンを狙い、翔の胸に衝撃が走る。ガラスが割れ、灯火が消える。暗闇に沈む悲鳴。
「翔っ!」
凛の声が闇に消える。蓮は別の灯りを掲げた。そこに血を吐き崩れ落ちる翔の姿が浮かぶ。
その刹那、森下 瑠衣が動いた。
闇と光の境界を一瞬で踏み抜き、堂島の死角へ滑り込む。足音は葉擦れと同化し、巨体の背中に渾身の蹴りを叩き込む。
「ぐっ……!」
堂島がよろめき、ランタンを落とす。
矢吹が叫びながら拳を振るった。空気が裂け、瑠衣の頬を掠める。皮膚が切れ、鮮血が闇に散った。だが彼女はバネのように後方へ跳び退いた。
「速ぇ……!」矢吹の歯ぎしりが響く。
闇の中、光を巡る死闘は続く。誰かが灯りを失えば、そこは死の影に包まれる。
凛が震える手で翔の傷を押さえ、必死に止血する。包帯が赤に染まり、彼女の瞳が涙で揺れた。
「まだ……死なないで……!」
だが――別の光が遠くで消えた。
悲鳴。誰かがまた闇に呑まれた。
常夜の恐怖は、誰ひとりとして逃れることを許さない。