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「こんにちは!今日からこの学園でお世話になります、シオ・ルドーシュです♪よろしくお願いします。」
(言えた…噛まずに言えた…)
一礼をしながらそんなことを考える。
すぐさま後ろ席から、誰かが拍手をする音が聞こえてくる。それに続いてまばらな拍手が席から聞こえてくる。
当然、歓迎の拍手などないものだと思っていた。実際、ゲームじゃ誰も拍手しなかったし。
「それでは、シオさんは…一番後ろの窓際の席に座ってください。」
「はい。」
分かっている。私の座る席は、悪役令嬢〔マーガレット・リスティニア〕の隣だ。
「一年間、よろしくお願いします。」
「え、あっ、はい!!よろしくお願いします!!」
驚いて少し反応が遅れる。悪役令嬢のマーガレットがゲーム内で主人公に自ら挨拶をしたことなど一度もなかったからだ。
(何かが起きてるの?)
ただ描写されていなかっただけの可能性も考えつつ、席に座った。
休み時間になり、クラスメイトが私の周りに集まり、この学校に来る以前の事をいっぺんに聞いてくる、なんて事はなく、皆、普通に友達と話していた。しかも、ちらほら私への悪口が聞こえてくる。
「 何で平民上がりがここに…」
「汚らわしい…」
「仲良くする価値もない」
もはや、聞かせてるとしか思えない声量だ。
分かってはいたが、実際に言われると相当くるものがある。より、自分がみじめなようで。
すると、マーガレットがおもむろに席を立ち、こちらを向いた。
「ねえ、シオ・ルドーシュさん。ちょっと、ついてきていただけますか?」
「は、はい!!」
勢いよく席を立つと周りから嘲笑が聞こえた。きっと、私が彼女に釘を指されると思っているのだろう。まあ自分もそう思っているのだが。
マーガレットの歩き方は気品が溢れている。背筋はまっすぐ、少しもぶれる事はなく、一定の速度で歩き、時々後ろを向いて私がついてきているのかを確認してくれている。まさに淑女の鏡だ。性格さえ良ければの話だが。
着いた先は、学園の裏庭だった。中央まで来たところでくるっとこちらへ向き、マーガレットは私へ問いを投げ掛けた。
「不躾ですが、一つ質問をば。…あなたは、
転生者ですか?」
「……もしかして、日本から?」
「日本から、ということはそうなのですね」
本日二度目の驚きである。しかし、先ほどの拍手といい、初対面の挨拶といい、考えてみればみるほどそうとしか思えなくなってくる。
「私があなたを呼び出した理由は一つ、あなたが、どのルートを攻略するのか聞きたいのです。」
「私は…今はそういうの考えていなくて。でも、とりあえず、リューイ君には会いたいですね。」
「そう、なのね。ごめんなさい、ありがとう。…そのね、私殿下が、[ユリウス・ルスベニア様]が好き、なんです。もし、もしシオ様が殿下が好きだったら、諦めていただくようにお願いしようと思っていたんです。なので、少し安心しました。」
「そんな!!人の婚約者を奪うなんてしませんよ。」
「ふふ、そうね。シオ様が普通の感性で安心しました。…ねぇ、シオ様。私達、友達になりませんか?」
「えっ、いいんですか?私何かで」
「はい、もちろんです。日本の事を話せる人は貴重ですし、まだまだ話したい事もあるので。」
「じゃあ…よろしくお願いします!!」
「はい、よろしくお願いいたします。」
マーガレットが出した右手をとり、握手をする。ここに来て初めての友達が悪役令嬢になるとは。いや、中身が違うから悪役令嬢と言うのはどうなんだろうか。
「私の事はマーガレット、とお呼びください。」
「じゃあ、マーガレット様で。」
「はい。」
愛しそうにこちらを見るマーガレットに少しのむず痒さを覚えながら、二人で教室に戻った。