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第15話:鏡の記録
市民区の片隅にある古文書館。
かつては歴史の記録を保管していた場所だが、今では人々にほとんど忘れられている。
埃をかぶった棚には、上書きされず残された断片的なデータや紙資料が眠っていた。
クオンは灰色の瞳を細めながら、静かに棚を探っていた。
旅装束の裾は埃にまみれ、額の第三の眼が淡く揺れている。
「……師匠、ここに残したのか。」
そのとき、背後から声がした。
「探しているのは“鏡の記録”か?」
振り返ると、そこにはひとりの女性が立っていた。
名はサフィール。
長い灰色の髪を編み込み、群青のドレスに身を包んだ上品な姿。
彼女の瞳は深い紫で、第三の眼は静かに輝いていた。
民間で古記録を管理する学者であり、国家にも睨まれている存在だった。
「あなたがクオンね。噂は聞いているわ。」
サフィールは淡い笑みを浮かべ、机の上に一枚の古いデータプレートを置いた。
プレートには、途切れ途切れの映像が記録されていた。
そこに映っていたのは、かつての師匠ライラ。
深緑のコートを纏い、黒髪を束ねた姿。
第三の眼が淡く光り、背後に奇妙な光景が広がっていた。
建物が上下逆さに並び、空の裂け目の向こうに同じ都市が映し出されている。
「……鏡の世界……」
クオンの唇から、思わず言葉が漏れる。
ライラの声が、断片的に響いた。
「これは……反対軸……管理できない……もう一つの……」
映像は途切れ、残りは砂嵐のように崩れた。
クオンは拳を握る。
確かに師匠は“タブー”に触れていた。
サフィールは紫の瞳を細め、囁くように言った。
「これを知れば、あなたは国家に消される。
けれど、真実を追うなら……ここから先は戻れない。」
窓の外では、市民が今日の未来修正報告を端末で確認していた。
「よかった、昨日の事故はなかったことになった」
「ほら、もう安心でしょ」
そんな会話が聞こえる。
人々は何も疑わず、与えられた未来に従う。
だがクオンの灰色の瞳は、確かに別の未来を見ていた。
「俺は……戻らない。師匠を追う。それが俺の正義だ。」
第三の眼が強く光り、彼の旅はさらに深いタブーの領域へ踏み込んでいった。
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