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白山小梅
12
#借金
* * * *
食堂の片付けを終えて、休憩のため一度部屋に戻ろうとした時だった。広間のソファに座り、新聞を読んでいる人がいることに気付く。
そのまま素通りをしようとしたが、その人物がタイミング悪く新聞を畳んだため、慌てて頭を下げた。
「おはようございます」
顔を上げた時、相手が先程の男性だということはすぐにわかった。しかし一緒にいた女性の姿は見当たらない。緊張した様子で彼の前を通過しようとした七香だったが、視線を感じて更に心拍数が上がっていくのを感じる。同年代の男子に慣れていても、大学生の男性には免疫がなかったのだ。
「君、アルバイト?」
「えっと……そうです」
そう答えた瞬間、自分に何か不手際があったのではと心配になり、足を止めてドキドキしながら男性の方を振り返る。
「あのっ……な、何かありましたでしょうか……?」
「えっ、別に。去年はいなかったなって思っただけ。あっちのショートの子は毎年いるみたいだけど。中学生?」
「はいっ⁈ 高校生です!」
「あぁ、中学生じゃバイトは無理か」
七香は目を見開き、開いた口が塞がらなくなる。確かに大人っぽいタイプではないかもしれないが、流石に中学生と間違えるには無理があるだろう。
「ちゅ、中学生って……どう見たって高校生じゃないですか!」
「どこが?」
「どこがって……」
「ほら、そうやって答えられないところとか。なんか反応が幼いなと思って。さっきから俺たちのことチラチラ見てたよね」
「見ていません! それに高校生はこんなのが普通です。あなたが大人の女性といるから知らないだけです」
「ふーん、やっぱり見てたんだ」
「違っ……!」
図星だったので否定が出来なかった。というかわかっていて言っているのなら、そっちの方がタチが悪い気がした。
「従業員が客のこと詮索するの、良くないと思うけど」
「し、してません! 妄想しただけです! 何もないのならいいです。ではこれで失礼します!」
そう言い放つと、七香は受付カウンターの奥にある従業員の住居に向かうための扉を開けて外に出た。
なんなの一体ーー七香はイライラし、胃がムカムカしてきた。無愛想だし、失礼だし、少しでもカッコいいと思ったことが悔しかった。
これから三日間、あんな人の接客をしなきゃいけないなんて嫌すぎる。でも働くってそういうこと。ワガママは言っていられない。それでも収まらない怒りを唇を噛み締めて堪えると、自分の部屋まで駆け出した。
◇ ◇ ◇ ◇
走り去る七香の後ろ姿を見ながら、|昴《すばる》は大きなため息をついた。こちらの気も知らずに興味本位で観察してくる目、痛いところを突かれたらキャンキャン吠える、感情のままに生きてる中高生が嫌いだった。
自分にもそんな時期があっただろうと言う奴もいるが、昴は友人たちと連むのが好きではなかったため、アオハルだなんだと騒ぐクラスメイトを冷めた目で見ていたのだ。
それにその頃にはすでに彼女と関係を持っていたから、高校生活が子供の集まりのような気がして、義務的に行くだけだった。
朝食の間、七香の視線を感じて苛立ちを覚えた。彼女との歳の差は十歳、好奇の目で見られることに慣れているとはいえ、気持ちのいいものではない。
持っていた新聞を棚に戻した直後、背後に人の気配を感じて振り返ると、|早紀《さき》がニヤニヤしながら立っていた。
「あぁ、早紀さん。電話は終わった?」
「一応ね。ちょっとトラブルがあったみたいで午前中は少し対応に追われそうなのよ」
「大丈夫だよ。好き勝手にしてるからさ」
彼女が忙しいのには慣れている。残念な気持ちもあったが、それを表に出さないように微笑む。すると早紀が昴の胸元を手のひらで押し、壁際まで追いやった。
「ごめんなさいね。昨夜は私の仕事のせいで到着が遅くなったし……でもそれが終われば私も好き勝手出来るから、ちょっとだけ待ってて」
早紀の手が昴の股間へ伸び、細く長い指で優しく撫でる。それは午後からの予定が、ベッドの上での激しい運動であることを示していた。
余計な言葉なんかなくても、行動だけで導いてくれる。自分の中の嫌な部分も、彼女の前ではどうでもいいことのように思えるのだ。
「わかった」
頬を染め、熱い息を吐きながら舌なめずりをした昴に、早紀は指先の動きを止めることなく軽くキスをした。
「それにしても……昴があんな絡み方をするのは初めて見たわ」
きっと先ほどの七香とのやり取りを見られていたに違いない。
「だって無遠慮にこっちを見てたじゃないか。ああいうのがイライラすんだよね、俺。それに比べて早紀さんは大人だから安心する」
「あはは。普通は逆じゃない? 女は若い方がいいってよく聞くわよ」
「さぁね。俺は早紀さんがいいから知らない」
早紀は嬉しそうに微笑むと、再び昴にキスをした。
「可愛いこと言ってくれるじゃない。早めに仕事を終えるように頑張るしかないわね」
「うん、待ってる」
昴の頭を撫で、早紀は自身が泊まるコテージに戻っていった。一人残された昴はソファに腰掛けると、背もたれに倒れ込み、そっと目を閉じた。