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次に頼まれたのは〈宅地建物取引士〉の合格証書だった。それと〈宅地建物取引士〉証いわゆる〈取引士証〉ってヤツだ。合格証書はそんなに細かくは気にしなくていいけど、〈取引士証〉は精度を上げてくれと言われた。
基本的に石川が仕事を請け負ってくる。それを俺が作る。そんなかんじだった。だからどんな取引先なのかとか幾らで請け負ってるとかは全く知らなかった。俺は依頼どおりに作るだけだった。石川はもの凄く褒め上手だった。今まで誉められたことなんてない。俺は取引先なんてどうでもよくなっていた。目の前の石川に褒められればそれだけで舞い上がるほど嬉しかった。
そしてコンビニを辞める頃、二十万円は本当に渡された。そして本格的にアパートを引き払って、マンションに移り住んで来た。
石川は関内に住んでると言っていた。あんなところに住むところがあるんだと驚いた。繁華街のイメージしかない。ただ石川はここにいる時は酒は基本的には飲まないが、飲み屋には頻繁に行くらしい。それも仕事だからって言っていた。だからここにいる時くらいは酒断ちしてるらしい。「肝臓がどうのってのは心配してないけど、ずっと飲みっぱなしで腹が出てきたら困るだろ」って言ってた。どうやら見た目にはこだわるらしい。
石川はよくここにスーツで訪れた。Tシャツにスウェットしか見てなかったから最初は驚いた。格好良かった。俺が見ただけで上等なスーツだって分かった。「碧も一着くらいスーツ買えよ」と言われた。なんなら買ってやろうかって。けれどそれは丁重にお断りした。俺が石川と同じスーツなんて着たら、間違いなく着られてしまう。ただ唯一持っていたスーツはくたびれていて肘がテカッているので新しく買ってもいいのかもしれない。
スーツはあの小屋に行く時は着て行くよう石川に言われた。とりあえず週に一回は顔を出す。本当は掃除するからジャージで行きたいくらいだが、石川は毎回社長室に俺を連れて行く。だから仕方ない。
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