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一人の少女が、まっすぐこちらを指さしている。
狙いは、俺だ。
その指先は震えていない。視線もぶれていない。覚悟を決めてきた人間の目だ。
――ただ、それでも感じてしまう。その少女の心にある、わずかな揺らぎを。
気のせいじゃない。これは俺自身の過去が、形を変えて立っているだけだ。
過去が、俺に問いを突きつけている。
「……私は英雄。私はヒロイン。私は……」
「ヒーロー、だった」
言葉を継いだのは俺だった。
〝英雄になりそこなった者たち〟
それが、俺の過去だ。
「こう生きればよかった」
「そうすればよかった」
「ああすれば、もっと良くなった」
「もっと勉強していれば」
「もっと練習していれば」
英雄になりたくて生きてきた。どこで失敗したのか、どこで道を外れたのか、それとも、どこかで妥協したのか。
もう、はっきりとは分からない。
けれど、過去が積み重なって今の俺がいる。そして今の俺は、決して裏切らない。過去から、ちゃんと繋がってきた自分なのだから。
――その過去を否定し始めたとき、
少女は俺を指さした。
少女の口が、ゆっくりと動く。
「……あんたさ。このままでいいって、本気で思ってる?」
指先が、さらに近づく。
逃げ場はない。
「それを私は許さない。……って言いたいところだけどさ」
少女は少しだけ笑った。
「ここは、あんたの頭の中なんだ。だから私を消すこともできる。なかったことにすることもできる」
そう言って、少女は外を示す。
夜明け前の空。
薄く滲む、金星の光。
「あんたは、どっちだい?」
問いは、まだ終わっていない。