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僕が生まれたのはちょっと前の事。水で埋め尽くされたケースの中、プカプカ浮くのはとても気持ちがよかったんだ。でも直ぐに僕はそこから取り出された。何やら僕は『失敗作』なんだって。
?「博士!僕、名前が欲しいなぁ…なぁんて…」
「はぁ?何を言っているんだ。失敗作に名前なんていらないだろう」
昨日も今日も相変わらず博士は資料とにらみ合いっこしながら淡々と答える
?「あー…そっか、そうだよね…!ははっ、僕変なこと聞いちゃったや…ごめんなさい」
「まぁいい。大蛇の能力をろくに使いこなせないお前はこれから人間として生きるんだ。そろそろお前はここを出て行ってもらう」
?「………へぇ…。僕、なんのために作られたの?」
「またその質問か…何度も言っているだろう?いつ出来るか分からないまだ見ぬ成功作の為、データが必要なんだ」
そう言って差し出されるは一枚の紙。僕は字が読めないから、張ってある写真が僕のものであることくらいしか分からない。
?「……ははっ、博士らしいや。ということは僕の仕事はもう終わってるの?」
「そうだ。」
?「僕以外に人間として生きている子はいるの?」
「いたが…全て野垂れ死んださ。大蛇の実験の失敗作だなんて誰も引き取らないし誰も好まない。当然の結果だ。」
?「……………クズだね」
咄嗟に口から出た言葉だった。多分、今の僕は柄にもなく冷ややかな顔をしているのだろう。
「ああ。私はそうやって生きているからな」
?「僕はいつここを出るの?」
「可能なら今出て行ってくれても構わない」
?「そっかぁ……仕方ない、僕は博士の為を思って今出て行くよ。お世話になったね」
「それはお互い様だ。衣食住の代わりにデータをもらったからな」
?「そう…じゃあサヨナラ。成功作が出来たら是非聞かせてね。」
「あぁ、お前が死んでなかったら嫌ほど自慢してやろう」
?「大丈夫、僕は死なないよ。」
「言質はとったからな」
そんな会話を挟みながら僕は玄関へと向かう。
?「ふふっ、それじゃ、また今度。」
「ああ。」
これが博士との最後の会話だ。
?「結局、まだ何も聞かないけど成功作は出来たのかな?」
それから数週間。僕は行く当てもなくフラフラとぼんやりとする頭で路地裏を歩いていた。
あの時より随分伸びた髪を揺らしながら考える。
?「僕はオンナノコだからって仕事もさせてくれないし…。お金無いんだよなぁ」
ほんの少しでも大蛇の血をひく僕は役立つ事がある自信があった。けれどもオンナノコには無理だって言われて断られ続けてきたのだ。
?「かと言って「一応大蛇の孫です☆」とか言う訳にもいかないしなぁ…」
そんなことを呟きながら次の角を曲がる。その時、
グイッ
?「うわっ!?」
急に体の重心が後ろに行き、尻もちをつく。痛い…
?「いてて……誰だよ…」
そう言って後を振り返れば、青がかった短髪を揺らし、クスクスと笑っている女の子がいた
?「……本当に誰だよ…」
そう言えば、彼女は「ごめんね。そんな強く引っ張ったつもりなくて」なんて言って手を差し伸べた。
?「………」
その手を無視して独りでに立ち上がる。
sz「えっと…私の名前は『スズ』。最近この町に引っ越してきたの」
フワリと微笑む彼女は綺麗だった。
?「………それで、なんで僕のこと引っ張ったの?」
sz「あぁそれはね、綺麗な子がいるなぁって思って…話してみたいなって」
ぽりぽりと頬を掻きながら照れくさそうにするスズ
sz「ああ!!でもゲイとかじゃないからね!!本当だよ!!」
?「………」
訳が分からない。
sz「えっと…ごめんね?ケガしてない?」
?「………してない」
sz「何処も痛くない?」
?「…痛くないよ。僕は平気さ」
そう言って彼女の心配そうな瞳から目を逸らす。
sz「え、えっと…その………」
しどろもどろになって慌てるスズという子に、内心嫌気が挿した
?(速くしてよ…僕はお腹空いて仕方ないんだ)
sz「と、ととと友達に…なれない………かなぁ…なんて…」
顔を紅潮させながら困ったように笑う彼女に僕は思わず「はぁ?」なんて口走る
sz「ご、ごめんね!!気持ち悪いよね!忘れて!!」
そう言って踵を返して走り出す彼女の肩を掴む。
?「……いいよ。友達。なってあげる」
sz「へっ!?」
?「その代わりに、僕お腹空いて仕方ないんだ。何か食べ物持ってないかな」
そう言えば、彼女の顔は眩しいほど明るくなる。
sz「えっと、ここにはないからお兄ちゃんに買ってもらうね!!ここで待ってて!」
そう言ってかけだしていく彼女の後ろ姿を愛想良く手を振りながら見送る
?(イエーイ食料の出所ゲット)
こんなクズな考えは全て博士に移されたものなんだろう。
しばらくすると、彼女は手にいっぱいの食べ物を持って帰ってきており、その後にはさらなる量の食べ物の袋をもったひょろい男が、息を切らして走ってきていた。
sz「持ってきたよ!!ほら、お兄ちゃんもはやく!」
「無理無理!どんだけ重いとおもってんねん!」なんてほざきながら歩いてくるお兄ちゃんと呼ばれた男。確かに髪色は一緒で、全体的に顔の形も似ていないと言えば嘘になる。
sz「もう。折角初めて友達が出来たんだから少しくらいしっかりしてよね!鬱兄。」
ut「へいへい。わぁーってるで。」
そう言ってドサッとその場に山のような食べ物が置かれた。
sz「えっと…お名前教えてもらってもいいかなぁ?」
なんて言いながら。
?「…」
名前なんてありませんけど。そう思いながらも思考回路を回していく。折角のトモダチ(食料の出所)だ。逃す訳がない。
nt「…………ナツメ。ナツメだよ。僕の名前。」
そう小さい声で言えば、満足げに彼女は笑う
sz「よろしくね!ナツメちゃん!沢山食べていいよ!」
ut「は!?お、俺の分は…」
sz「お兄ちゃんは昨日のおかずの残りでも食べてなよ」
ut「酷いなぁ…それ全部俺が買ったんやで?」
sz「浮気相手に貢ぐ為のお金なんて食べ物にした方がいいよ?不幸膨らせるより腹を膨らませなきゃ!」
ut「う”…………もう…好きにしろ…」
そう言って壁にもたれかかる鬱兄とやら。僕は無言で紙袋からリンゴを1つ取り出した
nt「……………甘い」
sz「でしょ?そのリンゴ割といいやつでさ。ちょっと高かったけど折角だしって思って。」
nt「へぇ…」
気づけばあっという間に時間は過ぎていた。二人で会話を挟みながら食べる食べ物は素直に美味しかったと言える。スズの幼少期の話。鬱兄の失敗談。昔暮らしていた実家にいた時の友達の話。どれもこれも新鮮なものばかりだった。僕は相槌しか打ってないけどね。
sz「ああっ!もうこんな時間…もっと話したかったのになぁ…」
nt「いいよ。君が話したいときにここにきな。僕はいつでもここにいるから。」
ut「スズ。そろそろ母さんたちに色々言われるだろ。いくぞ」
sz「はぁーい。また今度ね!ナツメ!!」
nt「ん………。」