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「パトカー来てた! マジで!!」
「公園、立ち入り禁止にするって聞いたよ?」
所は、当時の私たちが根城とした秘密基地である。
友達の家の、ちょうど裏手を流れる小川。
その岸に群生する背のたかい草々を折り束ねて拵えた、居心地のいい場所だ。
ただし、秘密基地とは言っても、特にそれらしい設備を整えているわけじゃない。
この場所の存在を知る何名か。 それぞれ暇を持て余せば、各自お菓子など持ち寄って適当に寛ぐ。
そういった目的で設置された、これと言って中身のない秘密基地だった。
しかしながら、ロケーションとしては最高なんじゃないのかなと、未だににふと思い返すことがある。
緑の絨毯があって、せせらぎの涼がある。
屋根などいらない。
頭上に生い茂った緑樹の葉々が、真夏日をよく遮ってくれる。
よしんば雨が降ったとしても、すぐそこの友達宅へ、さっさと裏口から逃げ込めるという寸法だ。
あとは、夜にホタルなど見れれば完璧だった。
そんな場所で、本日も気ままに夏休みを謳歌する私たちの元にも、件のニュースはもたらされた。
謎の生き物に、人が襲われたのだという。
被害者は、たこやき公園の近所に住む会社員。
なんでも、子どもと公園で遊んでいたところを襲われたらしい。
詳細は以下の通りである。
徐々に気温が上がり始める朝方のこと、幼子に催促されてキャッチボールをした。
ふとした頃合いに、子どもがたどたどしく投げたボールが、あさっての方向へ飛んでいった。
それを追いかけて、田んぼの畦道を駆ける。
貯水池に落ちなくてラッキーだったと考えつつ、草地に没したボールを拾い上げる。
そこで、ふと気配を知った。
何事かと思い横合いをみると、貯水池の淀んだ水面に、何やら妙なものが透けている。
それが何物であるか、喫驚のうちに把握する間もなく、激しい水音が鳴った。
現れたのは大きなハサミで、色合いは紅褐色をしており、スケールは重機のそれに似つかわしかったという。
あとはもう、死に物狂いだ。
子どもを抱き上げて、懸命に逃走した彼に、重篤な被害はなかった。
逃げる途中、膝小僧を擦りむいた程度である。