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第四話 ずれの記録


現場検証は、予定より早く終わった。


理由は単純だった。

調べることが、ほとんどなかったからだ。


鑑識は黙々と作業を進め、必要な写真と数値だけを回収する。

誰も無駄口を叩かない。

この現場では、それが暗黙の了解のようだった。


俺は、例のファイルを思い出していた。


――20××年3月27日

――16時45分

――争った形跡なし

――被害者一名、死亡確認


そして、花。


「先輩」


規制線の外で、俺は声を落とした。


「過去の事件、全部……花、同じだったんですよね」


先輩は立ち止まらずに答えた。


「そうだ」


「ロベリア。毎回、同じ色で、同じ大きさで」


「記録にある」


「でも、今回は黒百合でした」


一拍、間があった。


ほんの一瞬。

立ち止まったわけでも、振り向いたわけでもない。

ただ、歩調がわずかに乱れた。


「……違っていたな」


それだけだった。


違っていた。

なのに、誰も訂正しない。


署に戻る車内で、俺はスマホを取り出し、時刻を確認した。


16時58分。


事件発生から、すでに十三分が経っている。


「先輩」


「なんだ」


「さっきの時計、止まってましたよね」


車内の空気が、少しだけ硬くなった。


「止まっていたのは、壁の時計だ」


「でも、死亡推定時刻は16時45分で確定してました」


「……そうだな」


信号で車が止まる。


先輩はハンドルから片手を離し、フロントガラス越しに外を見た。


「現場の時計は、いつもそうだ」


「いつも?」


「発見された時点で、16時45分を指している」


心臓が、嫌な鳴り方をした。


「それって……」


「偶然だ」


即答だった。


「記録上はな」


記録上は。


その言葉が、頭の中で何度も反響する。


署に戻ると、先輩は俺にファイルを渡した。


例の、擦り切れた角のファイルだ。


「追記を書け」


「俺が、ですか?」


「立ち会っただろ」


俺はページを開いた。


【追記】

本件は、過去の未解決事件と

現場状況・発生時刻・被害状況において

高度な一致を示している。


――そこまで書いて、手が止まった。


花のこと。

時計のこと。

微妙な違和感。


書くべきだ。

でも、書けば「記録」は変わる。


「先輩」


「なんだ」


「……どこまで、書けばいいんですか」


先輩は、少しだけ考える素振りを見せてから言った。


「記録通りでいい」


俺は、ゆっくりとペンを走らせた。


【一致の理由は不明。】


書き終えた瞬間、

なぜか強い既視感に襲われた。


――この文章を、

俺はもう一度書くことになる。


そんな確信だけが、はっきりと残っていた。


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