テラーノベル
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「……よかった」
心の中で、静かに思う。
もし自分がいなくなっても、
元貴はきっと歌い続ける。
苦しくても、
眠れない夜があっても、
誰かのために音楽を作り続ける人だから。
若井もきっと隣で笑って、
3人でいた時みたいに、
また音楽を鳴らしていくんだろう。
それが嬉しかった。
本当に。
自分が消えたあとも、
2人の未来がちゃんと続いていくことが。
でも同時に、
胸の奥がぎゅっと苦しくなる。
“そこに自分はいない”
その事実だけが、
どうしても寂しかった。
この曲をライブで聴きたかった。
完成した音源も聴きたかった。
「ここ好きなんだよね」って、
3人で話したかった。
また夜中までくだらない話して、
「早く寝ろよ」って笑いたかった。
まだ一緒にいたい。
まだ足りない。
もっと、
もっと生きたかった。
でも、
それを口にしてしまったら、
今の穏やかな時間まで壊れてしまいそうで。
だから涼ちゃんは、
涙を堪えながら静かに笑った。
せめて最後まで、
“いつもの自分”でいたかったから。
──────
「……じゃあ、また明日ね」
涼ちゃんが小さく言う。
『おう、また明日』
元貴はいつも通り返した。
何も疑わずに。
「……おやすみ」
『おやすみー』
通話が切れる。
静かな部屋。
さっきまで聞こえていた声が消えて、
急に世界が広く感じた。
「……」
涼ちゃんはしばらくスマホを見つめたまま動かなかった。
若井の声。
元貴の声。
最後に聞けてよかった、と少しだけ思う。
それから、
ゆっくり身体を起こした。
「……っ」
少しふらつく。
壁に手をつきながら机へ向かう。
部屋は綺麗だった。
ちゃんと片付けた。
散らかってた譜面も、
置きっぱなしだった服も。
全部整えてある。
「……」
机の引き出しを開ける。
中から、白い封筒を取り出した。
震える指で、それを机の上に置く。
遺書。
何日も前から書いていたもの。
何度も書き直して、
結局、ちゃんと伝えたいことは最後までまとまらなかった。
「……」
封筒を見つめる。
怖い。
本当はまだ、
明日が来てほしかった。
また3人で音楽したかった。
若井とくだらない話して、
元貴に笑われて、
そんな普通を続けたかった。
でも、
身体はもう限界に近かった。
「……」
涼ちゃんは小さく息を吐く。
それから、
静かにベッドへ戻った。
布団に入る。
冷たいシーツ。
枕元にはスマホ。
さっきまで通話していた履歴が残っている。
「……」
少しだけ安心した。
最後に聞いた声が、
大好きな2人の声でよかった。
涼ちゃんはゆっくり目を閉じる。
静かな夜だった。
次回 以前作品「近距離トラブル」5000行きましたら更新します。
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