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無事にアパートに到着した俺は、ミノリたちになんと説明すれば、悩んでいた。
先ほどまで大罪の力を使って敵を粉砕していたやつが部屋の前にいるなんて思わないだろうし、ましてや部屋の中に入れようとしたら、ほぼ確実に反対される。
だが、そんなことで悩んでいる場合ではない。今は一刻も早くこの子を手当てできる場所に運ばなければならないのだから……。
俺は背中から生えている十本の銀の鎖のうち、一本をドアノブに巻きつけ、ゆっくりドアを開けると、反対されることを覚悟して、こう言った。(俺はその子をお姫様抱っこしている)
「みんな! 突然で悪いが、この子を部屋に入れてやってくれないか! この子は大罪の力を使ってまで俺を救ってくれた『命の恩人』なんだ! だから、せめてこの子が完治するまで、ここに居させてやってくれ! 頼む!!」
だが、そこにいたのは、なぜかナースの格好をしているミノリたちであった。
「ナオト、大体の事情は水晶を見て把握してるから、早くその子をこっちに運んで」
ミノリ(吸血鬼)は真剣な眼差しを俺に向けながら、そう言った。
「ナ、ナオトさん! 転移する位置を固定できなかった私に罰を与える前に、その子をこっちに運んでください!!」
マナミ(茶髪ショートの獣人)は、いつも通り少し緊張しながらも、俺にそう言った。
「ナオ兄、早くしないと手遅れになっちゃうから、急いで」
シオリ(白髪ロングの獣人)は頭に生えている真っ白な猫耳をヒコヒコと動かしながら、俺にそう言った。
「兄さん、私たちの格好にツッコミたいのは分かりますけど、今はその子を助けることだけ考えてください」
ツキネ(変身型スライム)は真面目な口調で、俺にそう言った。
「マスター、その子を早くこちらへ」
コユリ(本物の天使)は、静かにそう告げた。
「ナオトさん! さあ、早く!」
チエミ(体長十五センチほどの妖精)は、少し慌てながら、俺にそう言った。
「お、お前ら……。分かった……じゃあ、あとは頼んだぞ」
『了解!』
この子を水晶越しに見たときはガタガタ震えてたクセに、今はその子を助けようとしている。
まったく、切り替えの早いやつらだな……。
さてと、あとのことはみんなに任せて俺は少し休むとするか。
俺は元の姿に戻りつつ、隣の部屋につながっている襖を開けると、ゴロンと横になった。
七草がゆを食べた後に急に動くものじゃないな。腹が少し痛いし、気分も良くない……。
けど、そんなのに比べたら、あの子の方がよっぽど苦しいはずだ。
なぜなら、一人で複数の敵を相手にしていたからだ。
それにしても、どうしてナースの格好なんだ? というか、ミノリってあんな服も持ってたのか……。いったい、どこで手に入れたのやら……。
まあ、そんなことはどうでもいい。それよりもあの子は大丈夫なのだろうか? ミノリが「これが……ゾンビの体……!」とか言いながら、解剖し始めたりしてないだろうか?
それに、あの子はミノリがいつもどこからともなく取り出す……あの水晶のことを【心臓】だと言っていた。
もし、それが本当だとしたら、ミノリたちの温もりは、人間そっくりに再現されたものになる。しかし、そんなことが本当に可能なのだろうか?
そもそも人間だったミノリたちにモンスターの力を与えたやつは、今も生きているのだろうか?
あー! ダメだ! 考えれば考えるほど分からなくなる! 誰か俺でも分かるように説明してくれえええええええええ!!
その時、先ほどまで一緒にいた、あの子の声が聞こえた。
「いい加減にしろ! 好きにさせてくれって言ってるだろうが!!」
どうやら、ゾンビがミノリに不満を述べているらしい。
「ち、ちょっと! まだ完全に治ってないんだから大人しくしてよ!」
「『強欲の姫君』と呼ばれていた、お前に手当てされるほど、あたしは弱くないんだよ! 分かったらとっとと、まともな服に着替えやがれ!!」
「あっ! ちょっと! 待ちなさい! こらーー!」
スー、ピシャリ……。
襖が閉まると同時に部屋全体が紅いベールに包まれ、外の音が全く聞こえなくなった。
これは、結界かな?
まあ、こういう場合、結界を張った張本人を倒さない限り、逃げることはできないから、今はこの子の話し相手にでもなってやろう。
俺はゆっくりと起き上がると、その子に目をやった。腕を組みながら、仁王立ちでこちらを見下している目。
その様は先ほどまで、ミノリたちの治療を受けていた者の顔ではなかった。
なるほど。ゾンビのしぶとさはダテじゃない……ということか。
俺がそんなことを考えていた時、俺の右肩の近くにいたオオカミがいないことに気づいた。
ん? あいつ、いったいどこに行ったんだ? ……って、あれ? なんでこいつは、俺と向かい合ってるんだ?
「……ガルルルル!」
えーっと、さっきまで手の平サイズだったのに、どうして元の大きさに戻っているんだ?
というか、俺のこと睨んでない? 睨んでるよね、これ……。
俺、なんか悪いことしたかな? いや、してないよね?
「……ガウッ!!」
「ヒィー!!」
「うるせー! 黙れ!!」
床をダンと叩いた衝撃が体の芯まで伝わってきたため、俺たちはガタガタと震えながら、その場に座り込んだ。
おそらく黒影でできている、そのオオカミはその子のそばに行き、横になった。
その後、その子は自分の右手でそいつの頭を撫で始めた。
その子はオオカミをソファ代わりにしている。
オオカミの体に左手を置き、口が耳に届きそうなくらいの笑みを浮かべながら、紅い瞳を光らせ、俺の顔を見ている。
その時まで、あぐらをかいて座っていたが、その子に何も言われなかったため、そのままの姿勢で話すことにした。
「……え、えーっと、その、キズの具合はどうだ?」
「ふん、あたしはゾンビだぞ? あんなのキズのうちに入らねえよ」
「そ、そうか。なら、いいんだが……」
「それで? お前はあたしに用があるんだろ? 心の声が丸聞こえだったぞ?」
「やっぱり、お前らって、心の声が聞こえるのか?」
「ああ、感情が高まっている人間の声は遠くにいても、はっきり聞こえるぞ」
「それは厄介だな」
「いや、それくらい慣れろよ」
「ああ、そうだな」
ここまでは順調……かな?
この子は俺が知らない情報をかなり知っているようだが、それを全て聞き出そうとすれば、俺の過去が知られてしまう恐れがある。ここは慎重に……。
「前置きはこの辺にして、そろそろ本題に入ろうぜ」
俺の作戦がバレている? いや、気にしたら負けだ。気にせず、いこう。
「あ、ああ。よろしく頼む」
なんとか、ごまかせたな。正直、ヒヤヒヤしたぞ。
まったく、油断も隙もないな。気をつけないと俺が殺られそうだな……マジで。
俺はそう思いつつ、会話を再開した。
「単刀直入に言う。お前が知っていることを全て話してくれ」
「……そうだな。まあ、ここまで運んできてくれた礼を言う代わりに、あたしが知っていることをお前に全部話してやるよ」
「本当か! ありがとう! 恩に着る!」
「じゃ、一つ昔話を聞いてもらおうか」
「……昔話?」
「ああ、そうだ。あたしらが誕生する前から今に至るまでの昔話だ。少し長くなるが、それでもいいか?」
「……ああ、別にそれで構わない。よろしく頼む」
俺がその子に頭を下げようとした……その時、その子に頭をガッと掴まれた。
「頭を下げるよりも、あたしの顔を見ろ。さもないと今ここでお前の頭を握りつぶすぞ?」
顔が近い……。今にも額同士がくっつきそうだ。
でも、この目はマジな目だ。大人しく言うことを聞かないと確実に殺される……。
よし、ここはこの子の言うことを聞くことにしよう。
「分かった。でも、あんまり顔を近づけないでくれ。恥ずかしいから」
「じゃあ、座ったままでいいから、今すぐ、あたしを抱きしめろ」
「は……はぁ?」
「いいから、やれ! 噛まれたいのか!!」
「わ、分かった。じゃあ、失礼して……」
オオカミは少しガッカリした様子だったが、そんなことは気にせず、俺はその子を抱きしめた。
その直後、その子は俺の心臓の音を聞きながら、話し始めた。