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あたしらが誕生する前、この世界はモンスターと人間が協力し合って生きていた。
リザードマン、人獣、スライムにゴブリン。本当にさまざまなモンスターたちが人間と共存していた。
だが、それは突如として終わりを迎えた。
『五帝龍』があたしらの住む、この島国にどこからともなく現れて、次々に村やまちを破壊し始めたからだ。
そいつらは、火、水、風、光、闇をそれぞれ司り、暴れていた。
そいつらが暴れた後には必ず、『ウロコ』のようなものが一つ落ちていた。
それが何なのかを突き止めようと当時の魔法使いたちは、解析を急いだ。
けど、結局それが何なのかは百年くらい分からないままだった。
五帝龍討伐を何度も試みたが生きて帰って来た者はいなかった……。
ちなみに『五帝龍』が初めて現れた年はそれぞれが違う場所を破壊してたらしい。
けど、次の年からは全員が一箇所の町を破壊し始めたから、次はどの町が狙われるのかで賭け事をしているやつらもいたそうだ。
で、そんな恐ろしくも寛大な『五帝龍』がある日、異世界からやってきたという【たった一人の幼女】に倒された。
身長は百三十センチほどで、白というより銀に近い色のショートヘア。
肌は赤子の肌のように白く、黒い瞳は『五帝龍』がビビるくらい殺気立っていたそうだ。
服装は、あたしらの魔力が暴走するのを防ぐために大罪の力を持つ者以外がいつも着ることを義務付けられているものとは違う、白いワンピース。
裸足のはずなのに足の裏が一切汚れないことから、後に『クリアセイバー』という異名が付けられた。
そいつは『五帝龍』を一体につき一撃で倒し、それぞれのすみかに戻るよう脅して無理やり帰らせた後、魔法使いたちが解析中の『ウロコ』のようなものを奪取した。
その後、とある白魔女のところに行って、それらを別々に砕いて液体になるまで溶かせ! とそいつに言ったそうだ。
とある白魔女は少し戸惑ったが、面白そうだねーと言って、言われた通りにしたそうだ。
で、その後にその野郎が一手間加えて完成したのが、成功すればモンスターの力を手に入れることができるが、失敗すれば数秒でモンスターになるか、それよりもっと酷いことになっちまう薬『ライフアンドデス』だ。
その薬を作った当初の理由は『五帝龍』によって減少した人口を増加させることと、再度、そいつらが襲ってきた時のための対抗策だったそうだ。
その薬の完成により、一件落着に思えたが、そいつが作った薬に適応した例は少なく、失敗したやつらの方が多かったそうだ。
だから、唯一の成功例だった最初にして最強のモンスターチルドレン『トリニティゼロ』の血を薄めたものを使うことにしたそうだ。
同型が生まれたり、子供を産むと一年以内に死んでしまうなどのデメリットもあったが、この時からこの世界と向こうの世界の少子化を改善するために使用されるようになった。
『別次元転送装置』や『モンスターチルドレン育成所』を作るなどの功績を残した、そいつはこの世界のどこかに、この呪いを解く薬の材料を隠したっていう噂がある。
ちなみに名前がないと、あたしらは本来の力を発揮できないし、固有魔法も使えない。
それと、あたしらが異世界に転送される時に体の中に入れられる水晶は魔力源って意味の心臓だから、勘違いするなよ?
「……とまあ、あたしが知っているモンスターチルドレンに関係する情報はこれで全部だ。何か質問はないか?」
こちらの顔を覗き込みながら、その子はそう言った。
質問はないかと訊かれても、逆に今のを聞いて質問がない方がすごいと思うのは、俺だけだろうか?
まあ、気になっていることをそのままにしていたら後々、後悔するからなあ。うーん、やっぱり訊いておくか。
俺は少し考えた後に、そう決意した。この際、訊けるだけ訊いておこう。
「じゃあ訊くが、そいつの本名はなんて言うんだ?」
「ん? それって、薬を作ったやつの本名か? それとも、とある白魔女の方か?」
「薬を作ったやつの方だ」
「えーっと、確かそいつは本名を知られたくないと言って自分のことは『アイ』と呼ばせることにしたはずだから、本名は誰も知らねえと思うぞ」
「へえ、『アイ』か。それって、どういう字を書くんだ?」
「ん? それは漢字でどう書くかって意味か?」
「ああ、そうだ」
「えーっと、たしか……ラブの方の『愛』だ」
「そうか……ありがとう。それじゃあ、お礼にお前の名前を考えてやるよ」
「え? いいのか?」
「ああ、もちろんだ。さっき助けてもらったし、モンスターチルドレンのことも教えてもらったお礼だ」
「そ、そうか、あたしにも、ついに名前が!」
その子はとても嬉しそうな表情を浮かべながら、俺をギュッと抱きしめてきた。
「おっとっと、いきなりどうしたんだ?」
「だってよ! あたしみたいなやつには、一生かかってももらえないようなものなんだぜ? そりゃ嬉しいに決まってるじゃねえか!」
「そっか……それじゃあ、頑張っていい名前を考えなきゃな!」
「おう! 頼むぜ! えーっと、そういえば、お前の名前を聞いてなかったな……」
「ああ、そういえば、まだ自己紹介してなかったな。はじめまして、俺はナオト。『本田 直人』だ」
「ナオト……いい名前だな」
「ありがとう……って、そういうのは普通付けた本人に言うべきじゃないのか?」
「どっちでもいいだろ、そんなこと。というか、褒めてるのは名前なんだから、それと同時に名付け親を褒めてるようなもんだろ」
「あー、それもそうだな」
そんな会話をした後、この子の名前を何にするのかを考え始めた。
ピンク色の長髪に右目の周りにある縫い後、宝石のルビーのように紅い瞳はミノリが力を解放した時と同じような濃さだ。
包帯で首から下を覆い隠していなければゾンビとは思えない。
しかも、『憤怒の姫君』の力を持っているのだから、チートにも程がある。
うーん、この子を色で表したら間違いなく赤なんだが、どうもそう思えないだよな……。
人の温もりを感じたいとか言ってるから案外、寂しがり屋なのかもしれないな。
うーん、そんなことを含めた名前となると……。
おっ! これでいいんじゃないか? よし、とりあえず言ってみよう。
いつも通り(?)パッといい名前が思い浮かんだので、俺はその子に言ってみることにした。
「じゃあ、『カオリ』っていうのはどうだ?」
「『カオリ』? どんな字だ?」
「『夏』っていう字に織物の『織』で『夏織』」
「……『カオリ』か。うーん」
「ん? どうした? 気に入らなかったのか?」
「あー、いや、夏より花って字の方がいいんじゃねえのかなと思ってな」
「え? どうして、そう思うんだ?」
「いや、あたしの髪は桜と同じ色だから……あっ、この世界にも桜らしきものはあるから、不思議に思うなよ?」
「……ああ、分かった」
「で、せっかく髪がそんな色なんだから花っていう字を入れたいなーって、思ったんだよ」
「肝心なものが入ってなかったから、できれば、そっちの方がいいって、ことか?」
「まあ、そうなるな」
「うーん……よし! じゃあ、お前の望み通り『カオリ』の『カ』は『夏』じゃなくて『花』にしよう!」
「い、いいのか? 名付けるのは、お前なのに」
「ん? いや、まあ、名前は生まれる前後に親族が付けるのが普通だけど、お前たちは、この世に生を享けてから何年も経ってるから、付ける側と付けられる側の両方の意見を聞くことができる。だから、こんな名前がいいな……っていうのがあれば、できる限り俺もその意見を取り入れようと思うから、名付ける側がどうこうとかじゃなくて、お前がこれから一生呼ばれ続ける名前を付けるなら、少しでも自分がしっくりくるものの方がいいんじゃないか?」
その子は、いつのまにか俺の顔を見ながら、口をポカーンと開けていた。
「ん? どうした? 俺なんか変なこと言ったか?」
「い、いや、お前って、すっごく優しいんだな……」
「……ん? それは、どういう意味だ?」
「だってよ、見ず知らずのやつに、私の名前をつけてください! なんて言われたら普通、知るか! 自分で考えろ! ってならないか?」
「……うーん、まあ、ミノリの時は正直『なんだこいつ』とは思ったけど、そこまで考えたことはないな」
「へえー、じゃあ、なんでそんなやつを家に入れたんだ?」
「ん? あー、えーっと、放っておいたら、かわいそうだったからかな?」
まあ、一年間、放っておいたんだけどな……。
それを聞くと、その子は腹を押さえながら、笑い始めた。
「な、なんだよ、急に。いったい、どうしたんだ?」
「いや、だってよ! それって、ただのロリコンじゃねえかよ! あはははは!」
「お、俺はロリコンじゃない! ただ幼い女の子の扱いに少しだけ慣れているだけだ!」
「さあて、それはどうかな?」
「……何? それは、いったいどういう意味だ?」
「あのよ、あんなにたくさん嫁候補がいるのに、その気が全《まった》くないって堂々と言えるのか?」
「うっ! そ、それは……」
「……まあ、いいさ。あたしも今日からお前の家族の一員だからな。『花』に織物の『織』で『花織』か。よし! 契約成立だ! ゾンビ型モンスターチルドレンナンバー 一、『カオリ』は、現時刻をもって『本田 直人』をあたしの『マスター』として正式に認めることを、ここに宣言するぜ!!」
俺が葛藤している間に宣言しやがった。
まったく、こいつは他のやつより手がかかりそうだな。
けど、旅の人数は多い方がいいから、別にたいした問題じゃない……よな?
カオリ(ゾンビ)はそんなことを考えている俺の左耳に口を近付けると、こう囁いた。
「これであたしもお前の嫁候補だ。だから……遠慮なんかせずに、いつでも襲っていいんだぜ?」
おかしいな、顔が急に熱くなってきたぞ。お、落ち着け。落ち着くんだ、俺!
これはそういう意味じゃなくて……そう! 添い寝だ! いつでも遠慮なく添い寝していいぞって意味……だよな? そう解釈していいんだよな?
ふと、カオリの顔を見ると少し恥ずかしそうに、こちらをチラ見していた。
おいおい、これじゃあ、まるで俺が危ないやつじゃないか! 俺は犯罪者予備軍じゃないぞ!!
でも、この顔は反則だ。できることなら、今すぐにでも……って、いかんいかん! 俺はロリコンじゃない、俺はロリコンじゃない、俺はロリコンじゃない。彼は今、目を閉じて同じ言葉を何度も繰り返し呟いている。
その時、ツンツンと左の頬を突かれたので、俺はゆっくりと目を開けた。
「これからよろしくな……マスター」
「お、お前……! いったい何をする気……ん!」
とても柔らかく、温かい何かが俺の額に触れた瞬間、チュッという効果音が聞こえた。
俺が蜘蛛歩きで後ろに何歩か下がると、カオリはゆっくりと立ち上がった。こ、こいつ、いきなり何を!
「こいついきなり何を! って思ってるだろ?」
「うっ!」
「図星か……。素直なやつは見ていて面白いから嫌いじゃないぜ?」
「しゅ、趣味が悪いな」
「そうか? さっきあたしの手当てをしてくれた銀髪天使は、お前を独り占めする計画を立てているぞ?」
「何!? それは本当か!!」
「ああ、本当だ。なんなら、本人に訊いてきてやろうか?」
「いや、結構だ」
「そうか……」
コユリ(本物の天使)はそんなことを考えていたのか。まあ、薄々、勘付いてはいたけどな……。
「おい、そろそろ戻らないとまずいんじゃねえか? 早く戻ろうぜ、マスター」
「あ、ああ……」
カオリが俺に手を貸してくれたので、俺はその手を掴み、スッと立ち上がった。
普通は逆なんだけどな……。
そんなことを考えながら歩き始めると、カオリは指を鳴らして結界らしきものを解除した。
その時、例のオオカミがいつのまにか俺の右肩に乗っているのに気づいた。(手の平サイズの)
カオリは鼻歌を歌いながら、うれしそうに俺の腕にしがみついて歩いている。
はぁ……まーた厄介なやつに好かれちまったな。
こうして、俺はモンスターチルドレンについての情報とゾンビとオオカミを仲間に……家族にした。
しかし、俺たちはこれから、あの『まち』の修復をしなければならない。
そうしないと、俺たちの旅を始めるための道具や食料を買い揃えることができないからだ……。