城
研究所からお城までは結構近かったらしい。…楽しい時や緊張している時、時間が早く感じるのと同じ原理だと思うが…。
道中色々なモンスターとすれ違った。みんな研究員らしい。…もし、王が許してくだされば俺もここの研究員になる…らしいのでなるべく仲良くしたい。だが世の中はそんなに上手く回らないものだ。みんなこっちをチラッと見て狐につままれたような顔をするし…怪訝な表情をしながらヒソヒソ話始める者もいた。ガスターと目が合うとすぐに顔を逸らし逃げるように去るのが大体だが…いい気分では無い。
「(もし王にもこんな態度を取られたら…)」
地上にいた頃も同じような待遇にあっていたため、【自分は】慣れてはいるが、問題は…
「ガスターさん…そんなに殺意を撒き散らさないでください…みんな今にも気絶しそうになってます」
そう、ガスターだ。ガスターがさっきからとんでもなく怒っている。理由は明確で、俺に向けられている目が癪に障るのだろう。
「全然大丈夫だよ(●︎´▽︎`●︎)🖕」
「言ってることとやってることが矛盾しすぎてます」
だが、何故こんなに不審な顔をされなければならないのだろうか。人間がモンスターに何をしたと言うんだ?だいたいなぜ地下に閉じ込められている?
…考えれば考えるほど疑問が増えていく。
しかし、今はとりあえず王に会う事が最優先だ。それだけに集中しよう。
(ガチャ…)
扉を開けると、そこには2人のモンスターが玉座に座っていた。どちらも似たようなモンスターであり、何となくヤギに似ている気がする。
「お久しぶりでございます。我が君、そしてトリエル王妃。突然の拝見失礼します。ご要件については、この人間をご覧いただくと直ぐにご理解すると思います。」
「はっはじ…めまして…」
震える声で俺は挨拶をした。俯いていたため、王と王妃の顔は見えなかったが、王達はずっと黙ったままだった。正直いってほんとに怖い。なぜ黙っているのか分からないし沈黙しないで欲しい。
「か…」
ようやく沈黙が途切れたと思ったら第一声はまさかの「か…」だけ。何が何だか分からない。考えるのを辞めそうだ。
「「可愛い!!!」」
「……へ…??」
俺はあまりにも想定外の返答を受けしばらく硬直した。俺の聞き間違いじゃなきゃ間違いなく2人とも「可愛い」と言ったはずだ。ガスターの時もそうだが、どこをどう見たら可愛いと思えるのだ。包帯ぐるぐる巻状態にこの恐ろしいほど赤い目。可愛いという言葉が当てはまる箇所は、どんなに探しても無いに等しい。
恐る恐る顔を上げ、王達の方を見ると2人ともキラキラした目でこちらを見ていた。…まるで子供みたいに。
「でしょう???ニーベルと言うんです。ほら、あなたが慌てて助けて欲しいと頼み込んだ人間ですよ。普通の人間にしては恐ろしいほど回復速度が早くてですね、【キャラ王女】の時より早く目を覚ましましたよ。ほんと可愛いですよねうちの子」
「あー!!あの子か!!見違えるように可愛くなっちゃって…怪我はもう大丈夫かい?どこか痛いところは??てかもうガスターの子になっちゃったの!?決断早くない!?危ない人かもしれないのに!」
「今なんとおっしゃいました??」
「さっき我が君ってまた言ったからそのお返し!それにしてもほんとに可愛いー!!目がキャラと似てるねー!!」
「ヴ…」
「え…えと…あの…」
「是非うちの子たちとお話して欲しいわ!!アズリエルとキャラっていう子がいるんだけど、同年代の子があまりいないせいか兄妹同士でしか遊んでないのよ…元気なのはいいけど…いずれ王になるのならいくらか人とコミュニケーションとか取っとかないとダメじゃない?だからお願いよ〜!!絶対あなたとなら気が合うわ!!ちょっと騒がしいけどほんとにいい子たちなの!」
興奮気味に、しかも手をぎゅっと握りながら話すトリエル王妃。その隣で我が君と言われたことに関してちょっぴり怒ってるアズゴア王。何も言い返せなくなったガスター。俺はと言うとずっと苦笑いをしているだけ。なんなんだこの状況。
でも沈黙が続くよりずっと気が楽だ。それに少し楽しく感じる。少なくとも王様達は俺を認めてくれた…という認識でいいのだろう。
(良かった…いいモンスターで…)
俺は自然と苦笑いではなく普通に笑っていた。おそらく安心したせいだろう。
気づけば自然と震えも止まっていた。
しばらくたったあと、ガスターが時間を気にするように声をかけた。
「コホンッ…そろそろ本題に移ってもよろしいでしょうか?おふた方。」
それで我に返ったのか興奮気味だったトリエルとアズゴアは落ち着きを取り戻し、申し訳なさそうにこちらを見てきた。
「ごめんなさい…興奮しすぎたわ…」
ぺこりとお辞儀をし、謝罪するのはまさに上に立つ者の器にふさわしい。その身分を鼻にかけ下のものをこき使う人間共とは大違いだ。
「ごめんよぉ…つい興奮しちゃって…なんせ【キャラ以外の人間】は見たことないから…」
「あはは…大丈夫です。」
【キャラ以外の人間】…?アズゴアは確かにそういった。てっきりキャラとアズリエルという子はアズゴアたちの子供であり、どちらもモンスターだと思っていたがどうやら違うらしい。しかしそれならおかしい。モンスターから人間の子供が産まれるなんて恐らく無いはずだ。ということは必然的に俺と同じように大穴に落ちてきたということだろう。ガスターの発言からしてそう推測できる。落ちてきた理由はどうあれ俺以外に人間がいることは嬉しい。
「本題に入るのですが、ニーベルはうちで預かる…いや、うちの子として迎え入れてもいいでしょうか?キャラ王女と一緒にいた方が安心できる気がしますが…おそらく無理でしょうし…」
「そう…だね、残念だけど…【昔の戦争】のせいで人間を恨んでいるモンスターはまだ1部いる。何よりキャラが大の人間嫌いだから…ね、」
「でも話せるとは思うし、うちの子にならなくてもいいから関わりはあって欲しいわ。私も個人的に度々会いたいし!」
「もちろんです。」
キャラが大の人間嫌い…ということは関わりを持つのはかなり難しいのでは…?いや、それよりも、
「昔…の戦争…」
「…」
「あ…!な、なんでもないです…」
うっかりしてた。おそらくこれに関しては触れていけない部分なのにまさか口に出してしまうとは…。考え事に集中しすぎた…。
俺の発言を聞くと、ガスターやアズゴア達は明らかに気まずそうにこちらを見てきた。その顔から、おそらく人間絡みなのだろう。モンスターがここに閉じ込められているのと関係があるのか?いや、きっとそうだろう。今のではほとんど忘れられているがふと聞いたことがある。
「人間との戦争が…大昔あったんだよ。」
俺の思った通りの答えが返ってきた。やはりそうだ。人間との戦争…ある本で読んだことがあったから大体は知っていたし何となく予想していた。これで辻褄があった。道中のモンスターの明らかこちらを警戒していた様子。モンスターがここに閉じ込められている訳。
「人間が…封印したんですね。あなた方モンスターを…人間が一方的にしかけた戦争に敗北したから…地上ではモンスターが一方的に仕掛けたと言われてましたが…」
モンスターがあんな顔をするのも仕方ない。憎たらしくて仕方ないだろう。俺だって同じ立場だったら真っ先に殺すはずだ。
「…ニーベルさんとは関係ないわ。昔の人間が…こういっちゃあなんだけど…愚かだっただけ。私たちは何もしていないしするつもりも断じてなかった。」
トリエルは悲しそうにそう呟いた。無理やり笑顔を作っているが明らか傷ついている。何年もたったとしても、仲間を失った悲しみは消えない。…俺もその気持ちはよくわかる。
「ごめんなさい…悲しませるつもりはなかったんです。ただ気になって…」
「いやいいんだよ。むしろ驚いた。確かに君が言った通り地上ではモンスターが悪いことになっているからね。それなのに真実を知っているとは…どこで聞いたんだい?」
「本を以前拾って…それで知りました。」
「読書するのが好きなんだねぇ!今度うちの図書室においでよ!きっと気にいると思う!」
アズゴアは俺を無理やり元気づけるために元気強く言った。お人好しすぎる。だからこそ負けたのだろう。この世界は簡単に言えば殺すか殺されるかだ。弱者は殺され強者だけ生き残る。そんな世界はモンスターには合わなすぎる。
「…ぜひ今度行かせてください!それにキャラ王女達ともぜひ話してみたいです!」
俺も無理やり元気な声で返事をした。おかげでさっきの重々しい空気からだいぶ開放されたと思う。ガスターやトリエルもやっと暗い顔から少し明るくなった。
しかし俺がほっとしたのもつかの間、誰かがこちらを見ていることに気がついた。俺のちょうど真横の扉…誰かの気配。
「誰か…扉の近くにいませんか?」
「「「───え?」」」
【次回へ続く】