テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
【危険人物に指定しました】
その文字が画面に表示されたまま消えない。
俺と美咲は顔を見合わせた。
「やっぱり……」
美咲が小さくつぶやく。
「監視されてる。」
俺はスマホの電源を切ろうとした。
しかし。
画面には、
**【電源を切らないでください】**
という通知が先に表示された。
背筋が寒くなる。
「切れない。」
「切らない方がいい。」
美咲は静かに言った。
「今はまだ。」
俺はスマホをポケットへ戻した。
「31番って誰なんだ?」
美咲は封筒の中の紙を広げる。
『参加者番号31』
その横に書かれていた住所。
駅から二つ隣の住宅街だった。
「急ごう。」
俺たちは電車には乗らなかった。
改札も。
交通系ICも。
監視されている可能性がある。
徒歩で駅を避け。
バスも使わず。
裏道だけを歩く。
「こんな生活してたのか?」
俺が聞くと、
美咲は少し笑った。
「三か月。」
「ずっと。」
その一言だけで十分だった。
美咲も。
俺よりずっと前から。
この地獄の中にいた。
夕方。
住所のアパートへ着いた。
古い二階建て。
郵便受けには、
『佐藤』
という表札。
部屋は二〇三号室。
俺はインターホンを押した。
返事はない。
もう一度。
やっぱり返事はない。
「留守……?」
その時だった。
二階から足音が聞こえた。
若い男が階段を下りてくる。
スマホを見ながら歩いている。
どこにでもいそうな大学生。
美咲が小さく言った。
「……31番。」
男は俺たちを見る。
少し警戒した顔。
2,527
#狂愛
柏木さくら
3,861
リユ
232
榎本くもり
175
「誰ですか?」
俺は言葉に詰まる。
なんて言えばいい。
『闇バイト辞めろ』
そんなことを突然言われても信じるわけがない。
すると。
男のスマホが震えた。
通知音。
男が画面を見る。
そして笑った。
「やった。」
「採用された。」
その一言で。
俺の心臓が止まりそうになった。
美咲が一歩前へ出る。
「その仕事、行っちゃダメ!」
男は眉をひそめる。
「は?」
「お願い!」
「今ならまだ間に合う!」
男は俺たちを見て笑った。
「なんですか、それ。」
「宗教?」
「詐欺?」
違う。
そうじゃない。
俺は必死だった。
「俺も同じだった!」
「最初は荷物を運ぶだけだった!」
「でも!」
そこまで言いかけた瞬間。
道路の向こうに黒いワゴン車が止まった。
スライドドアが開く。
黒いスーツの男が二人。
ゆっくりこちらへ歩いてくる。
美咲の表情が変わった。
「遅かった……。」
31番は何も知らずに振り返る。
「え?」
男たちは笑顔だった。
「佐藤さんですよね?」
穏やかな声。
営業マンのような口調。
「お仕事の件でお迎えに来ました。」
31番は安心したように笑う。
「はい!」
その笑顔を見た瞬間。
俺は海斗の顔を思い出した。
あの日の自分を思い出した。
そして。
叫んでいた。
「乗るなぁぁぁ!!」
男たちの笑顔が。
その瞬間だけ消えた。
(第二十五話へ続く)
コメント
1件
もう、ラストの「乗るなぁぁぁ!!」で一気に息を呑みました。31番が何も知らずに「採用された」って笑うシーン、あの無邪気さが逆に怖すぎる……。主人公と美咲の「自分もそうだった」という焦りが痛いほど伝わってきました。監視の網目を縫うように裏道だけを歩く描写も、世界観の閉塞感がしっかり滲んでて好きです。続きが気になる!