あーあ。楽しかったのは、ほんのひとときだったよなぁ……
はじめて一緒に入ったお風呂で、俺なりにいちゃいちゃするように手を出すと、
「体が洗えないだろ、ちょっと待ってろって」
なぁんて激しく照れながら怒っていたけど、タケシ先生の体の隅々を知り尽くしている俺にかかれば、どうってことないひとことに早変わりするんだ。と心の中で自負し、後ろからぎゅっと抱きついてみる。
すっげぇ近くにいるのに、勉強を一生懸命する姿を見て、ずーっと我慢していた毎日――白衣を着ていようがそうじゃなくても、タケシ先生は綺麗で格好良くて、俺には勿体ない人だなって思わされてしまって。
「っ……おいおい、耳元で鼻をすすりながら、腰をぐいぐい押しつけてくるな。泣くほどヤりたかった気持ちは、充分に分かっているから」
いきなり投げつけられた言葉に眉根を寄せながら、こっそりとため息をつく。
確かにヤりたい気持ちはあったけど、それよりも日頃のスキンシップが減ったせいで、体だけじゃなく心も遠くに離れちまうんじゃないかって、それはそれは心配だったのに。
「もう無理っ! こんな色っぽい恋人を目の前にして、何もするなっていう方がおかしいだろ」
濡れた髪から滴った水滴が、肌の上を音もなく滑っていくのを見ただけで、ワケもなく煽られた気分になる。滴のあとを追うように、愛撫したくて堪らなくなるんだ。
「体くらい洗わせてくれって。あっ、ちょっ……んっ――」
文句を言い続ける口を早々に塞ぎ、必死になってタケシ先生をその気にさせてやった。
この手で抱くことのできる、俺だけのタケシ先生――
その後は目論見どおりに、タケシ先生を思いっきり抱くことに成功!
それなりに甘く過ごすことが出来たのに風呂から上がった途端、無言で俺の頭を振りかぶって殴りつけ、ベッドでは背中を向けて寝る始末。
「悪かったよ、無理矢理好き勝手にヤっちゃったことは、さ」
ベッドでもう一戦を試みるべく、手を出すなと書いてある背中に向かって謝罪を口にしてみた。これくらいじゃ、タケシ先生の怒りが収まらないのは分かっているけど――
「若さゆえの過ちというか、はじめての風呂場での行為に、すげぇ興奮したというか」
俺の告げた言葉を聞いた瞬間に、布団から出ていた肩がぴくりと動いた。率直すぎる台詞にもしかして、心を打たれてしまったとか!?
「ふざけるなよ、このバカ犬がっ!!」
言うや否やがばっと起き上がり、俺のほっぺたをこれでもかと抓りあげてきた。
「いっ、痛~っ。ほっぺの細胞が死んじまうって」
「これくらいで痛がるなよ。俺はもっと痛かったんだからな」
「えっ!? そうだったの?」
ぽろっと本音を口にしたら指先の力を更に入れて、ぐいっと引っ張る。んもう容赦しないぞって感じ。
「そうだったのじゃないよ。あまり解さず、強引に挿れてきてさ。すっごくつらかったんだ」
「つらかった割には、すぐにイったよね。いつもより早……いたたっ!」
空いてる手を使って、まぶたの皮膚を引っ張るなんて、痛いところを熟知しすぎだろ……。
しかもつらかったと言っているくせに、感じていたのは下半身でしっかりと感知していた。俺が腰を強引に押し進め、自身を使ってイイトコロをぐいぐい擦りあげたら、瞬く間にイったくせに。
びくんびくんと締め上げる中の状態に、一緒にイキそうになったんだ。必死になって堪えるのに、どんだけ苦労したことか――
「もうあんな無理強いをするなよ。俺の身体がいくつあっても足りないからな、分かったか?」
同意してやりたいのに抓る手を緩めないせいで、相槌すら打てない。どう見たって可笑しいだろ、恋人のまぶたとほっぺを引っ張る姿なんてさ。
「分かったな? 絶対だぞ!!」
返事をしていないというのに勝手に了承させられ、さっきのように背中を向けて寝てしまった、愛しのタケシ先生。
学会の件といいこのことといい、先の見えない不安でなかなか寝つくことが出来ない夜だった。
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