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「相変わらず……ニティアと先生が作った薬はすぐ売り切れるな」
硬貨の枚数を数えながら、空っぽになった荷車を見るフィニス。
この時期は材料の薬草が多く採れるため、大量に精製した薬を持ってきていたのにも関わらず……ほぼ即売である。
「材料の比率と魔力注入の量がシビアなのですが……その辺の調合、ニティアがとても上手ですから」
「ふっふ〜ん♪まぁ当然よね♪」
硬貨を数え終わったフィニス。調子に乗っているお嬢様のことはスルーして、荷車を邪魔にならない隅に寄せる。
「先生、これからどうする?もう帰る?」
「え……」
せっかく街に来れたのに……と少し寂しそうな表情をするニティア。
ジャヌスはそんなニティアの顔を見てくすりと笑う。
「せっかくですし、少しフラフラしましょうか」
その発言に目を輝かせるニティア。
「ジャヌスさん!パンケーキ食べたい!」
「まだ昼でも無いだろ……」
呆れるフィニス。言葉とは裏腹に、自然と3人はパンケーキが出るお店へと足を運んでいった。
⸻
「美味しかったぁ♪このために生きてるようなもんよね♪」
店を出て上機嫌なニティア。
「店主も言っていましたが、今度はみんなで王都のふわふわのやつを食べに行きましょう」
そう言って笑って見せるジャヌス。
「ほんとですか!」
「王都は人が多すぎて……なんか疲れるんだよなぁ……」
そんなことを言いながら歩く3人。
魔道具店の前に差し掛かった瞬間、ジャヌスが足を止めた。
「先生、どうかした?」
「いえ、最近寄ってないなぁと思いまして……掘り出し物があるかもしれませんし、ちょっと見てもいいですか?」
「あ、私も見てみたいです」
そう言って中に入る3人。
「……いらっしゃい」
白い髭を生やした店主が顔も向けずに声だけを発していた。
店内には、杖や水晶。小さな宝石や魔導書などが雑に並んでいる。
まじまじと並んでいる物を見ているジャヌスとニティアとは裏腹に、魔力が無いフィニスにとってはどれも同じ……何の価値もわからなかった。
ぼーっと壁に貼ってある張り紙や、切り抜かれた号外の記事を見ていると……
「……ん?」
記事に写っている人物の一人に見覚えがあった。
掠れている記事に目を通すフィニス。
【魔族から王都を救った英雄!】
剣士:ヴァルク
戦士:グラム
魔法使い:ジャヌス
僧侶:ミレア
精霊術師:エルシア
今から51年前の号外だ。
記事をじっと見ているフィニスに、店主が話しかけてきた。
「気になるか?」
「え?」
「その記事のことじゃ」
再び、貼られた号外記事に視線を移し、次にジャヌスを見る。ジャヌスとニティアは、何やら真剣に魔道具を見ながら、あれこれ話をしていた。
「この人たちって……?」
店主の髭で隠れた口元が上がった気がした。
「50年以上前の英雄。当時からワシは大ファンでな。この方達に関する記事は全て目を通した」
「……」
「しかし、この記事の半年後くらいだったかのぉ……この方達は、あの黒い魔女と戦ったそうじゃ」
「黒い魔女と?!」
つい声を出してしまったフィニス。パッと手で口を塞ぎ、ジャヌスたちの方に視線を向けると、2人は魔導書を読みながら話をしていた。
「しかしの……」
店主は話を続ける。
「その戦いは敗北……ジャヌス様以外はその戦いと……その時に負った傷が原因で……」
店主は静かに目を伏せた。
「魔女に打ち勝った英雄たちは、伝説のように語り継がれるが……そうでは無い英雄たちも数多く存在しておる……。この方達のようにな」
「今のワシにできることといえば、その英雄様たちを忘れずにいること。そして、それを知らぬお主らのような若者へ語り継ぐことくらいじゃ」
店主が視線を移す。
その先には、大量の魔導書と魔道具をかかえたニティアとジャヌスがこちらへ向かって歩いてきていた。
ドサッ!
「おじさん!すみませんこれください!」
「……できれば、少しだけお安くしていただけると助かるのですが……」
髭で見えない口。だが、はっきりと笑う店主がフィニスには見えた。
「これは貴重な物じゃ。びた一文値引きはせんぞ」
店主の反応に激しく抗議するニティアと、少しでも安くしようと交渉するジャヌス。
「なんでよー!少しくらいいいじゃない!」
「この輝きを見るに、純度がそうでも無いので……この値段は少し高すぎるのでは……」
「い〜や、それでも安いくらいじゃ」
壁に貼られた紙面と、目の前で交渉をする人物の顔を交互に眺めて、フィニスはふっと笑った。
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緑山 紫苑