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緑山 紫苑
ガラガラガラガラ
大量の魔道具を乗せた荷車を押しながら林道を歩く3人
「ジャヌスさん、なんで飛ばないんですか?別に私の魔力なら全然大丈夫ですけど」
普段フィニスと街へ行く時は、よほど天候が悪くない限り街の近くまで飛んでいく。
今朝、街へ行くときも飛んできたのに、何故帰りは歩いて帰るのか。ニティアはその疑問を口にする。
「確かに…ニティアに頼めば早く戻ることができますが……」
そう言いながら周りを見回すジャヌス。
「こうやってゆっくり歩くのも好きなんですよ」
そう言って笑う。
「困っている人がいるかもしれない。珍しい景色や、動物が見られるかもしれない。そして時には……放置していたら周りの村に危険を及ぼしかねない魔物が潜んでいるかもしれない」
「………」
「貴方たちにも、そういう経験をしてもらおうと思いまして」
その発言の瞬間……ゾクッの背筋に嫌なものを感じたニティア。
「ジャヌスさん!これって!」
「?」
何故焦っているのか分からないフィニスは首を傾げる。
しかし時間が経つにつれ、霧が濃くなってきたのがわかった。
「急に霧がでてきたな」
「ばか!これただの霧じゃない!魔法で作られた霧よ!」
「はぁ?」
押している荷車を手から離し、剣を握るフィニス。
「おやおや、こんなところで魔物とは……タイミングが悪いですねぇ」
笑顔を崩さないジャヌス。
「やっぱり魔物……」
「絶対に先生知ってただろ!」
「さて……なんのことでしょう?」
ニティアも杖を握りしめる。
四方八方。霧の奥からは、幾つもの影がゆっくりと接近してきているのがわかった。
そんなことを全く気にせず、ゆっくりと荷台に腰を下ろしたジャヌスが、2人に言う。
「フィニス、ニティア。2人で倒しなさい」
「え?」
「ただしフィニス。あなたは剣の使用を禁じます。その代わりにこれを……」
そう言い、荷台から何かをフィニスに向かって投げる。
パシッ
受け取ったものを見てみると……
ナイフよりも短い……小刀一本。
「はぁ?!」
「さっきの魔道具店にあったものです。あなたのナイフより丈夫なはずなので、それで頑張ってください」
「いや、無理だろ!!」
そんなフィニスを無視し、ニティアを見るジャヌス。
「ニティア。あなたは狩りの時と同じ条件で対峙してみてください」
「えぇ!魔法を制限するんですか?!無理ですって!!」
そんなやりとりをしていると、霧の中からゾロゾロと見たこともない虫や獣が姿を現し、前にいるフィニスに襲いかかってくる。
「くっそ!」
剣を鞘にしまい、小さな小刀を片手に近寄ってきた敵を蹴り飛ばすフィニス。
「フィニス!飛んで!」
ニティアの声に反応して思いっきりジャンプすると、あたり一面の敵に無数の小さな炎の矢が突き刺さり、敵が消滅する。
(消滅した……?)
飛んで上空から見ていたフィニスが困惑する。
無数の魔法が敵を攻撃したことは見てわかる。しかし、その敵全員のコアを撃ち抜き、消滅するなんてことがあり得るのか。それに消滅の際、炎すら発生していなかった。
「感謝しなさい!」
次から次へと湧いて出てくる敵。それに気づいているのか気づいていないのか……後ろからニティアのドヤった声が聞こえた。
声を無視して湧いて出てくる敵をよく観察するフィニス。
「やっぱり……」
どこを見ても、コアらしきものは見当たらない。一度作戦を立てるため、ニティアの隣へ走るフィニス。
ジャヌスはというと……荷車の周辺にのみに結界を張り、先ほど買った魔導書を読んでいた。
「なんでこっちにくるのよ……囲まれるじゃない!」
隣に来たフィニスを睨みつけながら、小さな炎の矢を撃ち続けて応戦するニティア。
「コイツら、コアが無いぞ!」
「え?!そんなわけないでしょ!」
「見えないのかよ!」
「見えないわよ!魔力の霧が濃いの!ってことは何?コイツらは幻影ってわけ?!」
「いや、蹴り飛ばした感覚はあった。実態はあるはず」
「なにそれ!?余計にわけわからないんだけど!!」
優雅に本を読んでいる英雄。と言うことは、魔法の制限に剣が使えない縛りがあっても勝てる相手だと言うことだ……
「ニティア、すまない。しばらく全方向に魔法を撃っててくれ!」
「あ〜もう!」
言われた通り、あちこちに火の矢を放つニティア。
出力が小さい為、近くの敵に直撃すれば、敵を消し去ることはできるものの……遠くの敵までは届かずに、炎がかき消えてしまう。
フィニスは周囲を見渡した。
敵は……いや、全方向から来ている。
強さも……矢が当たれば当たる場所に関係なく消滅している。
ニティアの魔法は……制限されていて遠くには届かない……
「ん?」
違和感。
前方に放たれた炎の矢が消える。
左側に放たれた炎の矢……同じように消える。
後方も同じだ。
しかし右側だけ……明らかに他の方向より消えるのが……早い。
「ニティア、霧を晴らす魔法は?」
「そんなもんあったら最初から使ってる!制限されてて使えないわよ!」
「……風魔法は?」
「風の塊を撃つくらい!炎の矢よりは遠くに届くと思うけど、この制限じゃコアに当たっても倒せる威力じゃ……」
「それで十分!」
魔導書を読んでいるジャヌスがふっと笑う。
「右側!あそこの黄色い花の奥目掛けて、制限上限ギリギリの出力で魔法を撃ってくれ!」
そう言ったフィニスはその花の方向めがけて走り出した。
「さっきっから何なのよもう!!」
そう言いながら、凝縮した風玉を言われた方向に飛ばす。
「フィニス!!」
その言葉で身体を低くするフィニス。頭上を風の塊が掠めていき……霧の奥で何かにぶつかり四散した。
風が四散したその周囲の霧が一瞬晴れる。そこに見えたのは……赤黒いコアが輝く、蠢く黒色の樹木。
フィニスは即座に魔物目掛けて突進をし、コア目掛けて小刀を突き刺した。
パキッ……パリーン!
コアが砕けると同時に消える霧と、白い炎に焼かれて消滅する大きな樹木。
大きく息を吐き、その場に座り込むフィニス。
混乱している間に霧が晴れ、唖然とするニティア。
そして……
「まぁ……ギリギリ及第点……ってところですかね」
読んでいた本を閉じ、荷車からゆっくりとジャヌスが降りてきた。
「それに……白い炎……」
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