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9 - 第8話:消えた文字

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2025年06月12日

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第8話:消えた文字

その朝、ユイは珍しく寝ぐせを気にせずに登校した。

髪の一部が軽く跳ねたまま、いつもより無表情で歩く。

薄めのピンクリップだけが、顔色に浮かんでいた。

制服のリボンはゆるく結ばれ、持っていたトートバッグには、折れ曲がったノートが無造作に突っ込まれている。


1限目の現代文。提出課題のプリントが入っているはずのノートを開いたとき、ユイの目が見開かれた。


「……ない」


何も書かれていない…。

何十ページにもわたって書き込んだはずの文字が、まるで初めから何も書かれていなかったかのように消えていた。


「ボールペンのインク……? いや、鉛筆で書いたとこも……」


まるで、ノートが“記憶喪失”にでもなったようだった。


昼休み、ひとり校舎裏に出て、ユイはそっと財布を開いた。

“まるいもの”の模様は、本の形。ページの中心が光っていて、左右の文字が消えている。


「また……」


ユイの手が、ひとりでにノートをめくる。

空白になったページの中に、うっすらと、かつての言葉が浮かんで見えた。


『やっぱり、あのとき謝ればよかった』

『どうせ伝わらないって思ってた』


それは文字ではなかった。

ユイが、かつて書こうとして、書けなかった“気持ちの断片”だった。


ページを閉じて顔を上げると、風がひと吹き髪をなでた。

遠くで誰かが部活の声を上げている。


「……あのときの自分に、言ってあげたいな」


その瞬間、ポケットの中で“まるいもの”が柔らかく光った。

ノートを開くと、数行の字が戻っていた。

けれど、正確な言葉は少し違っていた。


『ちゃんと伝えてよかった。言えなくても、大事だった』


ユイはふっと笑った。

小さな間違いのままでも、それでよかったのかもしれない。

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