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第10話:管理者の声
次の戦場は廃墟の劇場だった。
砕けたステージ、折れたシャンデリア、破れた赤い幕。天井から差す月明かりが、観客席に影を落とす。
血と埃の匂いが染みついた空気の中、蓮たちは重い足取りで歩いた。
相原 凛は包帯を巻いた腕を押さえ、水色のシャツが汗で濡れていた。
高城 翔は腫れた頬を庇いながらも拳を構え続け、真田 玲央は眼鏡を押し上げてステージ全体を睨んでいた。
森下 瑠衣はスポーツウェアに泥と血をこびりつかせ、息を殺して立ち回る準備をしている。
その時、場内に声が響いた。
「――お前たちのスキルは、願いの残骸にすぎない」
空気が震え、ステージ中央に“それ”が現れた。
灰の仮面、長い外套。人間かどうか判別できない存在。光を背負ったように輪郭が揺らいでいる。
「私は夢の管理者。この場を統べる者だ」
蓮が叫んだ。「……スキルは何なんだ!」
管理者は淡々と告げる。
「人間が強く願ったものを、この場で歪ませ、力として与えている。応急処置を願う者には“回復”。力を求めた者には“怪力”。だが、それは純粋な願いではなく、歪んだ模造品だ」
凛の顔が歪む。
「じゃあ……私の“治したい”って気持ちも、歪んでるって言うの?」
仮面は笑みを浮かべたように揺れる。
「そうだ。願いが叶うほど、お前たちは壊れていく」
その瞬間、闇から飛び出す影――矢吹 隼人だった。
短髪に精悍な顔、腫れた拳を構え、管理者に殴りかかる。
「ふざけんなッ! 俺の拳は俺の願いだ!」
だが拳が触れる寸前、空気が歪んだ。
衝撃が反転し、矢吹の体が宙を舞い、背中から舞台に叩きつけられる。骨の軋む音が劇場に響き、血が口から溢れた。
「ぐ……あああっ!」
翔が叫び、殴りかかる。
分厚い拳が仮面を狙うが、管理者の外套が触れた瞬間、皮膚が裂けた。まるで自分の力が自分を傷つけるように。
「力はすべて、歪むのだ」
玲央が震える声で叫ぶ。
「……つまり、俺たちが戦っているのは、願いそのものか……!」
瑠衣が矢吹を引きずり、凛が必死に止血する。
月明かりに照らされた仮面の影は、不気味に笑んでいた。
「願いがある限り、血は止まらない」
静寂の劇場に、その声だけが反響し続けた。