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1994年。
当時18歳だった御船愛子こと白縫銚子。
旧姓・秋ヶ瀬銚子。
そして21歳の白縫多摩雄。
まだ夫婦になる前、二人が初めて出会った頃の話だった。
未解決事件を扱う番組が放送されるたび、銚子は千里眼を使い続け、その代償として激しい副作用に苦しんでいた。
収録が終わると、人気のないテレビ局の廊下で壁にもたれ、荒い息を繰り返す。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
肩を震わせながら苦しそうに呼吸を整えようとするが、吐き気と倦怠感は一向に収まらない。
「う・・うぅ・・・」
その姿を偶然見つけた若き日の多摩雄は、慌てて駆け寄った。
「だ、だ、大丈夫?」
苦痛に歪んだ表情を見た多摩雄は、驚きと心配を隠せない。
ゆっくりと距離を縮め、恐る恐る声を掛けた。
「き、君は・・御船愛子さんだよね?」
銚子は息を切らしながら顔を上げる。
「あ、あなたは?」
多摩雄は少し照れくさそうに笑った。
「俺は未解決事件調査隊で
ADやってる白縫って言うんだけど」
「し、白縫さん?」
そう呟いた直後、再び体がふらつく。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「だ、大丈夫?」
多摩雄は咄嗟に銚子の肩へ手を添え、倒れないよう優しく支えた。
その温もりに、銚子は少しだけ安心した表情を浮かべる。
「あ、ありがとうございます」
多摩雄は近くにあったペットボトルの水を差し出した。
「とりあえずこれ飲みなよ」
「す、すいません」
「いいんだよ。気にしなくて」
銚子は両手でペットボトルを受け取り、小さく頭を下げる。
「い、いただきます」
少し水を口に含み、乱れていた呼吸がわずかに落ち着いた。
多摩雄は安心したように微笑む。
「どう?少しは落ち着いたかな?」
「は、はい・・・」
それでも顔色はまだ青白い。
多摩雄は心配そうに銚子を見つめた。
「随分辛そうだけど・・それって
やっぱり例の千里眼のせい?」
銚子は静かに頷く。
「は、はい・・・」
少し間を置いて、ぽつりと続けた。
「千里眼を使うと、毎回こうやってダルさが来るんです」
その言葉に、多摩雄は目を見開いた。
#普通
野々さくら
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44
ありあ
159
「でもさ?番組が放送開始されて随分経つよね?」
嫌な予感が胸をよぎる。
「もしかして・・・初回からずっと?」
「は、はい・・・」
多摩雄は言葉を失った。
「ま、まじかよ・・・」
しかし銚子は弱々しく微笑んだ。
「でも・・いいんです・・・」
その瞳には、不思議なほど強い意志が宿っていた。
「私の力が人の役に立てるんなら」
多摩雄は静かに首を振る。
「確かに君のおかげで色んな
未解決事件が解決してるけどさ」
言葉を選ぶように一度息を吐き、真っ直ぐ銚子を見つめた。
「このままだと君の身が持たないだろ?辛くないか?」
銚子は目を伏せ、小さく笑う。
「辛くないって言ったら嘘になります」
その声は震えていた。
「けど・・私がやらなきゃ・・」
握り締めた拳に力が入る。
「私が被害者の聲を届けなきゃ
事件は迷宮入りになっちゃいます」
多摩雄は胸が締め付けられる思いで、その横顔を見つめた。
「何でそこまで出来るんだ?」
さらに静かに問い掛ける。
「何でそこまで見ず知らずの
他人の為に自分を犠牲に出来るんだ?」
銚子はしばらく黙っていた。
やがてゆっくりと顔を上げ、その瞳には悲しみと決意が入り混じった光が宿っていた。
「私はこの力で・・人から避けられてきました」
銚子はゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、幼い頃から抱え続けてきた孤独と、それでも前を向こうとする強さが宿っていた。
「ですけど、この力が人の役に立てる
人を救える。この番組がそう教えてくれました」
その笑顔はどこか儚く、それでいて誇らしかった。
「だから少しでも・・番組に恩返しがしたいんです」
多摩雄は静かに首を振る。
「恩返しって言うなら俺たち番組の方だよ」
「え?」
銚子は思わず目を丸くする。
多摩雄は照れくさそうに頭をかきながら笑った。
「君のおかげで色んな未解決事件が解決したんだ
君に救われた人は大勢居るはずだよ」
銚子は胸が熱くなり、小さく呟く。
「白縫さん・・」
「俺みたいなペーペーに出来る
恩返しなんてたかが知れてるけどさ」
少し考え込んだあと、多摩雄はぱっと顔を上げた。
「何か出来る事ないかな?」
「出来る事?」
銚子が首を傾げると、多摩雄は名案を思いついた子供のように笑った。
「そうだ!なら毎週末遊びに行こうよ!な?」
「え?」
突然の提案に、銚子は思わず固まる。
次の瞬間、頬がみるみる赤く染まっていった。
その反応を見た多摩雄は慌てて両手を振る。
「あ、嫌だった?」
銚子は慌てて首を横に振る。
「あ、いや・・・」
言葉が続かない。
恥ずかしそうに視線を逸らしながら、小さな声で続けた。
「嫌とかじゃなくて・・その・・男性と
遊びに行った事とか、経験がなくて・・」
その言葉に、多摩雄も少し赤くなった。
「あ、ごめん。別に君に変な
事したいとか、そう言うんじゃなくて」
慌てて弁解すると、優しく微笑む。
「えー・・っと、その、息抜きになればなー・・って」
「息抜き・・・」
銚子はその言葉を噛み締めるように繰り返した。
「まぁ、遊びに行くのが嫌だったら別の──」
最後まで言い切る前に、銚子がそっと口を開いた。
「嫌じゃないです」
多摩雄は目を瞬かせる。
「本当に!?」
少し照れながらも、銚子は勇気を振り絞るように顔を上げた。
「は、はい・・」
多摩雄の表情がぱっと明るくなる。
「なら明日ね?」
「え!?あ、明日!?急ですね・・」
「いや、だって週末じゃん?明日」
「あ、そっか・・そうだった・・」
銚子も小さく笑みを浮かべる。
副作用の苦しさはまだ残っている。
それでも胸の奥には、それを忘れさせるほどの温かな感情が芽生え始めていた。
◇ ◇ ◇
リビングには穏やかな空気が流れていた。
銚子と多摩雄の馴れ初めを聞き終えたさくらは、にやりと口角を上げる。
「わぁ〜お❤︎お父さん積極的〜❤︎」
その一言に、多摩雄は照れくさそうに頭をかきながら笑った。
「いやぁ、あはは・・まぁ、若かったんだね」
笑いながらも、その目はどこか懐かしさを宿している。
「実は銚子の事が気になってた部分もあったからな」
その何気ない告白に、さくらは興味津々で身を乗り出した。
「好きだったみたいな?」
多摩雄は頬をほんのり赤く染め、照れ隠しのように笑うだけだった。
「まぁな、あはは・・・」
その反応だけで十分だった。
さくらは思わず笑みを浮かべる。
その様子を見ていた信愛は、少し驚いたように呟いた。
「二人の出会いなんて初めて聞いた」
すると銚子は、どこか懐かしむように目を細める。
「あれから私たちは、毎週末遊びに出掛けたわ」
その一言とともに、銚子の脳裏には、あの日々の景色が鮮やかによみがえる。
コメント
1件
ああ、このエピソード良かったですね…。若き日の銚子さんと多摩雄さんの出会い、すごく胸に響きました。千里眼の副作用で苦しみながらも「人の役に立ちたい」と自分を犠牲にする銚子さんに、多摩雄さんが「息抜きになれば」と優しく誘うシーンが特に好きです。二人の関係がここから始まったんだなと思うと、感慨深いです。さくらさんが「お父さん積極的〜」って言うのも微笑ましかったです。