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Envy 6
「あ、私はここで。出会うわけにはいきませんので……」
オーゼムはそう言うと、奥の部屋へと身を隠した。
「ちょっと……。オーゼムさん?」
ヘレンはロウソクの明かりで、姿が奥の部屋へと消えたオーゼムの方を照らした。仄かな明かりで見える奥の部屋の壁には、やはり絶滅種の剥製がズラリと並んであった。
なんだかひどく不気味に思えてしまい。またヘレンは心細くなって、オーゼムの名を呼んだ。シンと静まり返った部屋からオーゼムの感激の声が上がった。
「おお! これは高そうですね! 一体いくらになるのでしょう!?」
ヘレンはオーゼムのことを諦めてその場から離れた。
ヘレンは数十分前に勇気を出して、再度ジョンとの面会を大部屋へと入って来た女中頭に告げたのだった。ヘレンのための野菜や肉の盛られた食器を持った女中頭はまったく無表情だったが、あっさりと頷いてくれた。だが、ヘレンが元気を取り戻していることにも何も反応を示さなかった。
今は何時だろうか?
ヘレンは考えた。
ここへ来てからは、時間を知らなかった。
腕時計は持っていない。
腕時計を持つこと自体。のんびりとしたヒルズタウンでは珍しいのだ。
部屋の中央からの呼び声に応え、ヘレンは大部屋に足を踏み入れた。
数人の女中に連れられ再び現れたジョンの顔には、憂いが感じ取られたが……。
何かがズレている。
ジョンは薄ら笑いを浮かべていたのだ。
ヘレンはそのジョンの不気味な笑みに戦慄を覚えた。
Envy 7
モートはジョンの屋敷の外観を眺めていた。
白い月の明かりによって僅かに照らされる。薄暗い針葉樹の間に挟まる青煉瓦の屋敷は、部屋の数こそ多いが、全体的にこじんまりとした印象の屋敷だった。
Envy 8
「さあ、来ましたね」
ジョンが急に緊迫した表情を浮かべ。一人の女中から渡された一冊のグリモワールを持ち出した。青い炎の暖炉に手を差し伸べると。すると、暖炉の奥の炎から巨大な五匹の蛇がズルズルと這い出て来くる。その次から次へと現れてくる蛇の鎌首をジョンは撫で始めると、すぐさま全ての蛇を、この部屋のあらゆる出入り口に向かわせる。
「ジョンさん? 何を?! 何が起きているんです?!」
ヘレンはその巨体から来る重さによって部屋全体を振動させる巨大な五匹の蛇に震え上がった。彼がここまで警戒する人物は、ここホワイト・シティでは一人しかいない……。
「私はね。今までずっと……深く考えていたんです。いや、悩んでいたのです……。自分は生か死かに。そのどちらに強い魅力を常に感じていられるのかとね。そう、それはこれからも生きていくために必要な原動力。そう、生き甲斐だ。……私はねえ。とても大切な人を亡くした日に、その答えがはっきりとわかったのですよ。私の生き甲斐はたった一つ! 人類とは真逆な衰退の道を歩むことだ!」
ヘレンはジョンの顔の血色がみるみるうちに良くなっているのに気が付いた。
「私はね。ヘレンさんが凄く羨ましいんだ!!」
突然、巨大な蛇が壁にめり込み何かに噛みついた。
「グッ……!」
くぐもった声が壁から部屋へと木霊した。
壁の方からバタンと大きな音がしたと思ったら、ヘレンは目を疑った。重厚な絨毯の上にモートが倒れていたのだ。
何故、モートは壁や床を通り抜けられるのに?
それが、モートは今では蛇に噛まれたせいか絨毯の上に、おびただしい血を広げていた。
4匹の蛇もそれぞれの扉や窓付近から離れ、モートに大口を開けて向かって行った。
「モート!」
ヘレンはありったけの声で叫んだ。
どこからか男の柔らかい祈りの声がする。
すると、倒れていたモートが起き上がった。
すぐさまモートは銀の大鎌で自分を噛んだ一匹の蛇の首を刈った。
それから、胴体に刈り込み。首と胴体を完全に切り離した。
4匹の巨大な蛇がモートへ一斉に襲いかかる。だが、モートは銀の大鎌を投げつけた。
大部屋の反対側の壁が破壊的な音を立てる。
巨大な蛇の首が全部吹っ飛んだ。
強烈な破壊音と振動で、ヘレンは頭を抱えて屈みこんだ。