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奴隷魔法を広めるアーカードを止める為に、奴隷魔法を使う?
一体、何を考えているのです。
「? どう考えてもここは奴隷魔法だろう」
ゼゲルが困惑しながら答える。
「確かに火炎魔法も魅力的だが、別にいらんだろ」
「だって、火炎魔法を使える奴隷を使役すればいいわけだし」
確かにそうですが……。
「それに、どんなに強力な魔法が使えるようになっても、それだけでアーカードを倒せると思えん」
「アーカード側のことを考えて見ろ、どれだけの奴隷が揃っているかもわからん。魔法使いだっているだろうし」
戦力の規模が違うのだ。
組織を相手に戦って、一人で敵うわけもない。
徒党を組もうにも、ゼゲルには人望がなかった。
帝都にいる誰に声をかけても「えっ、でも。ゼゲルでしょ?」「ゼゲルの仲間になるなんてヤダー」と言われるだろう。
そうなれば、選択肢は限られる。
『だからと言って、無理矢理奴隷にして戦わせるなんて』
「ええい、やかましい。これしか手段がないのだからつべこべいうな! えい!」
赤い画面をポチっとすると、ゼゲルに奴隷魔法が授けられた。
魔法レベルは人間が扱える最大値第八魔法まで、いきなり最大レベルの魔法が扱える。
『ああ、そんな』
「むはは! もう遅い! これで奴隷魔法は俺のものだ!」
喜ぶゼゲルに、女神が告げる。
『これは、虫の奴隷魔法です』
「えっ、虫?」
アーカードには支配に特化した茨の奴隷魔法が。
ルナには支援に特化した水の奴隷魔法が。
ハン・デュラには武装に特化した鉄の奴隷魔法が発現した。
アーカードにとっては自分の奴隷魔法こそがオリジナルなので、他はすべて亜種だと考えているが、実際は違う。
奴隷魔法は習得した人間の人格を反映し、変質するのだ。
「虫の奴隷魔法は、何に特化しているんだ?」
『虫を操ることに特化しています』
「えーーっ!?」
ゼゲルがすっとんきょうな声を上げる。
これではどんなに奴隷を増やしても勝ち目がない。
踏み潰されて終わりだ。
「や、やり直しを」
『残念ですができません』
「くっそーーーーーー!! このダメ女神め!!」
残酷な現実を突きつけられ、ゼゲルは思う。
俺の人格を反映したら、虫の魔法になるってどういうことだ?
こんなのでどうやってアーカードに勝てばいいんだ。
『ゼゲル……』
何も成すことなく自滅した中年男性の姿に、女神も哀れまざるを得ない。
『もう、もういいのです。私がここから出してあげますから、もうどこか穏やかな場所でひっそりと暮らしましょう。あなたに世界を救うなんて土台無理だったんです。ゼゲルは、どんなに努力してもゼゲルだから……』
そこまで言われて諦める訳にはいかない。
ゼゲルはぐすぐすとベソをかきながら、何かないかと画面を探す。
第一奴隷魔法【痛みを《ペイネス》】
痛みを与える拷問呪文だが、この世界の虫には痛覚がないので無意味。
事実上の死にスキル。
第二奴隷魔法【動け《アクシル》】
刻印済みの虫を操る。ただし、一度につき一体しか命令できない。
第三奴隷魔法【聖痕よ来たれ《スティグマ》】
虫限定で奴隷刻印を施す。虫は知能が低い為、強制的に隷属可能。
虫の奴隷魔法のボーナスとして、周辺の虫にまとめて刻印できる。
「つ、使えない。まったく役に立たない……」
試しに第三奴隷魔法を使ってみると、周囲にいる虫の位置がゼゲルの頭の中に浮かび上がってきた。
「うげ、ここは虫だらけじゃないか」
どうやら刻印済みの虫の位置を把握できるらしい。
第二奴隷魔法で虫を動かしてみるが、いかんせん一匹ずつしか動かせないので、めんどう極まりない。
「くそ、そうじゃない。こっちに。ああっ。そっちじゃない!」
一匹の虫のコントロールすらままならないゼゲル。
その健気な姿に女神は若干胸を打たれた。
このあまりにも哀れすぎる男に、せめて助言をしよう。
『あの、第四魔法を使っては?』
「ん? そんなのがあるのか」
ゼゲルの認識では奴隷魔法は第三までだった為、失念していた。
第四奴隷魔法【絆よ、今ここに集え《ヴィンクラ・オ・ライラ》】
刻印済み、もしくは隷属状態にある奴隷を複数同時に使役する。
使役限界は精神力に準拠し、対象の知性が高いほど強靱な精神力を要求される。
ゼゲルは「その機能、第二奴隷魔法にまとめろよ」と思ったが、言っても仕方が無いので諦めた。
せっかくだし、使ってみるか。
【絆よ、今ここに集え《ヴィンクラ・オ・ライラ》】
ゼゲルの声に呼応するように、虫たちが動きを止め。
【動け《アクシル》。】
次の言葉を言うが早いか。
虫たちはカサカサと音を立てながら、ゼゲルへ殺到した。
カサカサカサカサ!!
「うおおおお!? 嫌だ! 汚い!!」
「離れろ、離れろ!! ホント!!」
ゼゲルの命に従い、虫たちが部屋の四隅に集まる。
虫限定の奴隷魔法とはいえ、使ってみると面白いものだ。
文字のように整列させてみたり、羽のあるものには空を飛ばせることもできる。
人間より従順なところが気に入った。
気味の悪い見た目も、慣れればかわいいかもしれん。
塔のように高くしてみたり、戦わせてみたり。
おお、なるほど。これは面白い。
何時間だって遊んでいられる。
『あの、ゼゲル。お楽しみのところ申し訳ないのですが、そろそろ』
「うるさい。まずは覚えねば使えんではないか!」
子供のように目を輝かせ、使役に熱中していると、階段の上からドアを開く音がした。
コツコツと靴音が響く。
現れたのは聖堂騎士団副団長にして、拷問狂のリズだった。
手には酒瓶を持っている。
こいつ、酒を飲んでいやがったな。
「ゼゲル、朝だ。拷問の時間だぞ」
「えっ? もう朝?」
驚くゼゲルに女神が告げる。
『私は何度も止めたんですからね』
実際、何度も止められていたような気がする。
奴隷魔法が楽しすぎて忘れていたが、俺は朝には拷問の末に処刑されるのだった。
そして、今がその朝である。
「おい、女神!! 時間を巻き戻せ!」
『それは神でもできません! 勝手に全知全能だと思わないでください!!』
慌てるゼゲルをリズが眺める。
逆光で表情がわからない。怖い。
「遂に気が触れたか、ゼゲル」
手元の奴隷魔法で対処しようにも、そこらにいる虫ケラがリズに勝てるわけがない。
どうしたらいい、どうしたら……。
ゼゲルは猛烈に考えたが、何も思い浮かばなかった。