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侑は左端にいる娼婦の女から目が離せない。
(まさか……いや、違うよな……)
彼は、俯き加減で並んでいるその女に見覚えがあった。
かつて立川音大で教えていた、響野門下の中でも特に『落ちこぼれ門下生』だった九條瑠衣にそっくりだったのだ。
考えている事に没頭していると、凛華から『響野様』と小声で呼びかけられてハッとする。
「それでは、ここにいる娼婦の中から、お好みの娼婦をお選び下さい」
「彼女たちをじっくりと見ても問題はないか?」
「ええ、どうぞご自由に」
ここに並んでいる娼婦たちは、皆綺麗な顔立ちの女ばかりだが、侑が釘付けになったあの娼婦は、どちらかと言うと幼い、というか、可愛らしい雰囲気の女だ。
侑は凛華から離れ、一列に並んでいる娼婦たちの前を品定めするように、右から左へゆっくりと歩みを進めていく。
どの女たちも、雰囲気が似たような女ばかりだな、と思うものの、左端にいる女に近付くにつれて、侑の心臓は、なぜか早鐘を打ち始めていた。
(やはりあの女は、九條なのか? それとも違う女か? だが九條かどうか確実にわかる事が、一つだけある)
静まり返った娼館の玄関ホールに、侑が歩く靴音がコツコツとやけに響いていた。
侑が一番左端に並んでいる娼婦の前に立つと、瞼を伏せているせいで顎先までの髪が顔に掛かり、表情が見えない。
「すまないが、少し顔を上げてくれないか?」
彼の鼓動が忙しなく打ち続けているのを落ち着かせるように、侑は言葉を掛けた。
「はい……」
少し掠れたような声音で返事をした後、女がゆっくりと顔を上げ、侑と視線を交える。
明るめの茶色い髪に、大きな濃茶の瞳、そして——