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スタートヽ(*^ω^*)ノ




入院した次の日。

昼下がりの病室は一気に賑やかになった。


「キヨーっ!大丈夫か!?」

「お前のおかげで優勝できたんだぞ!」


数人の友達が駆け込むように見舞いに来て、病室は一瞬でサッカー部の部室みたいになった。

「足折ってんのに最後シュート決めるとか、マジで伝説だわ!」

「いやー、さすがキャプテン!」


ベッドの上のキヨは痛みに顔をしかめながらも、照れくさそうに笑った。

『だろ?俺すっげーかっこよかっただろ?

でも、骨折れてなかったらもっと余裕でかっこよかったけどな!笑……まあ、でも優勝できてよかったな?』


笑い声と拍手が飛び交う。

その騒がしさに、隣のベッドのカーテンがわずかに揺れた。

しかしそこから聞こえる声はひとつもない。


一人だけ、空気の外にいるような気配。


やがて友達が帰り、病室に静けさが戻った。



『……あー、ごめん。うるさかったよね』

キヨはため息混じりに笑い、カーテンの向こうに向かって声をかけた。


一瞬の間。

それから、冷たいほど淡々とした声が返ってくる。


「……別に」


それだけ。


キヨは思わず眉をひそめた。

『なんだよ、ほんとに。もうちょい愛想よく返してくれたもいいのに….』


ぼそっとこぼしてから、自分でもおかしくなって苦笑する。

『変なやつ〜』


カーテンの向こうのレトルトは、やはり何も言わなかった。






キヨの病室には毎日誰かしらがやってくる。

家族、友達、後輩──。

キヨのベッドは笑い声と賑やかな会話で満たされ、退院を願う励ましの言葉で溢れていた。


その横で、カーテンに覆われた隣のベッドは、いつも変わらず沈黙している。

気配はあるのに、まるで存在を消すように。


『……またうるさくしちゃったね、ごめん』

見舞客が去ったあと、キヨは何度目かの謝罪をカーテン越しに投げかける。


「……」


返ってくるのはいつも通り、短く冷たい言葉か、あるいは無言。

それでもキヨは懲りずに『ごめんな』と笑っていた。


そんな日々が続いたある夜。

病室がすっかり静まり返り、外の街灯の光が白く差し込む中、

ふいにカーテンの向こうから声がした。


「……いつも、いろんな人が来てて……楽しそうだね」


あまりに不意打ちの声に、キヨは思わず息を呑んだ。

これまで以上に長い言葉。

低く、けれど寂しさを滲ませた声だった。


『……え?』

キヨは体を起こそうとしたが、足の痛みで顔をしかめる。



不意に落ちた声は、夜の病室にふわりと沈んだ。

消灯後の薄暗さの中、隣のカーテン越しに響くその声に、キヨは小さく瞬きをした。



続く

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