テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
2話目もよろしくお願いします!
スタートヽ(*^ω^*)ノ
入院した次の日。
昼下がりの病室は一気に賑やかになった。
「キヨーっ!大丈夫か!?」
「お前のおかげで優勝できたんだぞ!」
数人の友達が駆け込むように見舞いに来て、病室は一瞬でサッカー部の部室みたいになった。
「足折ってんのに最後シュート決めるとか、マジで伝説だわ!」
「いやー、さすがキャプテン!」
ベッドの上のキヨは痛みに顔をしかめながらも、照れくさそうに笑った。
『だろ?俺すっげーかっこよかっただろ?
でも、骨折れてなかったらもっと余裕でかっこよかったけどな!笑……まあ、でも優勝できてよかったな?』
笑い声と拍手が飛び交う。
その騒がしさに、隣のベッドのカーテンがわずかに揺れた。
しかしそこから聞こえる声はひとつもない。
一人だけ、空気の外にいるような気配。
やがて友達が帰り、病室に静けさが戻った。
『……あー、ごめん。うるさかったよね』
キヨはため息混じりに笑い、カーテンの向こうに向かって声をかけた。
一瞬の間。
それから、冷たいほど淡々とした声が返ってくる。
「……別に」
それだけ。
キヨは思わず眉をひそめた。
『なんだよ、ほんとに。もうちょい愛想よく返してくれたもいいのに….』
ぼそっとこぼしてから、自分でもおかしくなって苦笑する。
『変なやつ〜』
カーテンの向こうのレトルトは、やはり何も言わなかった。
キヨの病室には毎日誰かしらがやってくる。
家族、友達、後輩──。
キヨのベッドは笑い声と賑やかな会話で満たされ、退院を願う励ましの言葉で溢れていた。
その横で、カーテンに覆われた隣のベッドは、いつも変わらず沈黙している。
気配はあるのに、まるで存在を消すように。
『……またうるさくしちゃったね、ごめん』
見舞客が去ったあと、キヨは何度目かの謝罪をカーテン越しに投げかける。
「……」
返ってくるのはいつも通り、短く冷たい言葉か、あるいは無言。
それでもキヨは懲りずに『ごめんな』と笑っていた。
そんな日々が続いたある夜。
病室がすっかり静まり返り、外の街灯の光が白く差し込む中、
ふいにカーテンの向こうから声がした。
「……いつも、いろんな人が来てて……楽しそうだね」
あまりに不意打ちの声に、キヨは思わず息を呑んだ。
これまで以上に長い言葉。
低く、けれど寂しさを滲ませた声だった。
『……え?』
キヨは体を起こそうとしたが、足の痛みで顔をしかめる。
不意に落ちた声は、夜の病室にふわりと沈んだ。
消灯後の薄暗さの中、隣のカーテン越しに響くその声に、キヨは小さく瞬きをした。
続く