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(か、可愛い……何それ!?)
少し耳が赤くなってるなあ、って言うのは目で見て取れたけれど、そんな風に感じなかったから、尚更それをコンプレックス? に思っているっていう所が可愛いと思った。グランツって淡々と話すから、そういうのになれているものだと思っていた。でも、考えれば年下だし……(いや、この言い方はダメだとは思っているんだけど)、苦手なことの一つや二つあるよね、と私は私を納得させて、グランツを見た。
グランツは、咳払いしながら、恥ずかしそうにこっちを見ている。相変わらず、無表情だけど、その中に、感情がちゃんとあるんだって言うのは、分かった。何となく、と言うか、これだけ長く付合ってきたからこそ、分かる変化というか、感情というか。
「それで、話……続けた方が良いですか?」
「え、ああ、うん。楽しみにしてたから」
「楽しみ……」
「あっ、ごめん、そうじゃなくて。えっと、禁忌の魔法は知っておかない取って思ったし、悪魔って、聞き慣れないなあ、と思ったから」
「まあ、そうでしょうね」
と、今度は打って変わって、冷たく言った。
温度差が激しいと思いつつも、突っ込まずに、グランツの次の言葉を待てば、少し経ってから、彼は話を再開した。
「悪魔は、願いを叶えて貰うために召喚するものでした。かつては、の話です。今は、憎い相手を殺すために、代わりに殺してくれ、と縋るものです。復讐の代行者。それが、悪魔です」
「復讐の代行者」
「まあ、名前だけですよ。実際、復讐も何もしてくれません」
そう言うと、グランツは息を吐いた。
復讐の代行者なんて、一瞬、中二病かと思ったけれど、スルーした。あまり、突っ込まない方が良いだろうって。うん。
(でも、悪魔って、本当に、此の世界にもいるんだ)
ファンタジーには悪魔でしょ! 二次創作も悪魔って魅力的! って、飛び跳ねちゃう私だけど、実際いると、厄介だよね、とは思った。此の世界の悪魔が、どんなものか分からないけれど、グランツに聞いて、少しでも、内容を深めようと思った。
「何もしてくれないって、それじゃあ、何のために召喚するの?」
「知らないんですよ。悪魔を召喚したあとどうなるかを」
と、グランツはいうと、頭が痛いというようにおさえる。
何を知らないのか、私なりに考えてみることにした。まあ、喋るのが苦手と言われた手前、あまり喋らせるのも申し訳ないような気がしたから。
(悪魔の召喚は禁忌魔法……召喚っていうのが禁忌じゃなくて、悪魔を召喚することが禁忌で……)
聖女の召喚には何も代償を払っていないだろうから、召喚自体に意味があるわけじゃないのだろう。じゃなかったら、私やトワイライトを召喚するときに誰かしらなんやかの代償を受けているはずなのだ。それに、助けてもらうために、召喚しているのに、命を持っていかれたら、たまったものじゃないし……
(いや……代償を払ってまで、召喚する意味があるから)
じゃなきゃ、召喚しない! に、収まってしまう。
「悪魔を召喚することの代償……」
「はい。聖女の召喚には時間と知恵がいりますが、悪魔は簡単にできてしまうのです。そこが、恐ろしいポイントでもありますが」
「簡単に」
「そうです。本当に簡単というか……安易に手を出せてしまうのも、この魔法の恐ろしいところですね」
色々、準備はいるのですが、基本的には誰でも出来ます。と、グランツはいった。
簡単だけど、危ない、から禁忌? となると、他の二つと比べて、やはり違和感が残る。
あの二つに比べると、遥かに優しい気がするのだ。代償が。ユニーク魔法ですら、代償を受けて、不老不死になってしまっているのに。魂が、存在自体がなかったことにされるのが、禁忌魔法なのに。
悪魔の召喚はそれと同等の恐ろしさがあるのかと。
「ごめん、分からない……」
「まあ、答えは簡単ですよ。それに、クイズではないので、答えをお教えしますね」
と、グランツは、私が答えを出すのを待っていたみたいだが、無理だと判断したらしく、ふう……と息を吐いた。当てたいところだが、これ以上、考えられない。こういう所は、頭が固いと自分でも思う。
「始めにいったように、悪魔は復讐の代行者と呼ばれています。そして、それがずっと語り継がれる要因となっているのは、召喚者の、禁忌を犯したものの姿が変わらないからです」
「つまり、悪魔が、召喚者の身体を乗っ取るってこと?」
「端的に言えばそうですね」
と、グランツはいうと、目をそらした。こっちはまるで、その目で見たことがあるような反応だったから、これまた気になった。
だが、確かに、それなら、復讐の代行者だっていわれても可笑しくないだろう。それに、悪魔という名前……というか、クラス? だから、それなりに強いと思うし、願いは叶えるんだろう。それこそ、血みどろになるかもだし。
「悪魔は、召喚者の身体を乗っ取り、召喚士の願いを叶えます。願いは必ず叶える、と言うのが悪魔ですから。そこは、約束を守るのでしょう。まあ、召喚者の身体では、バレてしまうので、魔法やら、使い魔やらを出すんでしょうが」
「だから、復讐の代行者……でも、魔力がない人でも召喚できるってこと?」
「まあ、魔力がない人なんていませんからね」
「あ……そうだった」
初歩的なミスをした。そうだ。魔法が使えないからといって、魔力がからっきしないわけじゃない。というか、魔力がなければ、生きていけないのだから、魔力は少なからずあるだろう。本当に初歩的なところをミスったと、頭を抱えてしまう。恥ずかしい。
グランツは、そんなこと気にする様子もなく、淡々と話を進める。グランツのそういう所は、好きだけど、興味が無いのかなあ、何ても思ってしまう。
(けど、悪魔ってほんと厄介……な存在かも)
使い魔とか、魔力がない人間の魔力をそこ上げする、とか考えると、本当に厄介だと思う。代償を払っているのだから、それなりに強いし、何よりも、禁忌とされているのだから、本来は召喚してはいけない存在なのだろう。
混沌とはまた違う厄介さだと思う。
「悪魔自体が、もの凄い魔力を持っているので、その召喚者の肉体を乗っ取れば、悪魔が本来持っている魔力をそのままつかえますしね。悪魔は、身体がないと動けませんから」
「だから、召喚を」
「はい。憎悪や、恨みといった激しい感情を食い物とするので、そういう人の召喚に応えるんです」
そういうと、グランツは、何処か寂しげに瞳を揺らしていた。
グランツ自体もそういう経験があるからだろう。誰かを、恨んだり、憎悪を抱いたり。まあ、その相手が誰で、何で恨んでいるのかは、知っているんだけど。
(というか、また聞きそびれてた。ラヴァインと、グランツの事)
起きたら、聞こう、聞こうと思っていたのに、全然聞けていなかった。でも、まだ悪魔の話も聞きたいし、聞きたいことだらけだった。
私が、期待の眼差しを、グランツに向けていれば、彼は、少し戸惑ったように咳払いをした。
「まとめますけど、悪魔の召喚は、禁忌の魔法の一つです。元より、悪魔という存在は、混沌や聖女と似たように大きな力を持っていますから。だからこそ、そんな悪魔を召喚してはいけないと、此の世界の秩序が乱れるからいけないということです」
「混沌や、聖女と同じような力……それは、確かに、召喚しちゃまずいわよね」
「ですから、エトワール様。絶対に、禁忌の魔法になど、手を出さないで下さいね」
「わ、分かってるって。というか、疑ってるの?」
「そういうわけではありませんが、好奇心は身を滅ぼしますので」
と、グランツはいったが、結局それは、疑っていることと何も変わりないんじゃ無いかと思った。口では言いながら、完全に疑っているというか、心配している。本当に、何処まで人のことをちゃんと信じれないんだろうかと。
まあ、良いけれど。それが、グランツなんだし。
けれど、何か、ぼかされたような所もあったので、それは、また何処かで調べたいと思う。
死者蘇生の魔法。
時を操る魔法。
悪魔を召喚する魔法。
この三つが、禁忌というわけだ。代償の伴う大きな魔法。そして、ひとたび発動してしまえば、世界の秩序を揺るがしかねない魔法。怖いところは、魔力さえアレバできてしまうと言う所だ。犠牲がいる、とかなると、また話は変わってくるんだろうけれど。
手を出さないことが一番、好奇心は猫をも殺すから。
(その禁忌の魔法を使って、エトワールは何をしようとしているの?)
トワイライトはああやって隠していたけれど、もし、あの声が、言葉が、本当ならば、止めなければならないのだ。時を操る魔法を使おうとしているエトワール・ヴィアラッテアを。
「エトワール様?捜し物はもう良いのですか?」
「え、ああ、うん。禁忌の魔法について聞けたし。でも、まだ少し調べたいから、ここにいてイイ?」
「はい、大丈夫です。俺は、貴方を見守っているだけなので」
グランツのその言葉を受けて、私は、フッと微笑んだ。本当に、可愛いくて、健気だなあ、なんて思いながら。