テラーノベル
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庭での出来事から一夜明けても、澪の胸はまだ少しだけ熱かった。
『朧さんに⋯何かあったら⋯嫌ですから⋯』
その気持ちを思い出すたび、胸の奥がじんわりと温かくなる。
その日の午後。
屋敷の前に、見慣れた制服姿の男子が立っていた。
「⋯⋯?」
(誰だろう⋯⋯?
あっ、朧さんに⋯⋯!いや⋯)
「⋯えっ、クラスの⋯⋯佐伯くん⋯?」
「よかった、澪!
最近学校に来てないから心配してたんだよ!」
(心配って……そんな仲良かったっけ)
佐伯は息を切らしながら駆け寄ってくる。
「家にもいないし、連絡も取れないし⋯⋯
本当、どこ行ってたんだよ⋯⋯!」
「す、すみません⋯⋯事情があって⋯⋯」
「事情って⋯⋯こんな古い家に住んでるなんて、知らなかったよ」
佐伯は屋敷を見回しながら眉をひそめる。
(どうしよう⋯⋯朧さんに見つかったら⋯⋯)
そう思った瞬間。
「澪さん」
背後から、静かな声がした。
──朧だ。
朧はゆっくりと歩いてきて、澪の隣りに立った。
その表情はいつも通り冷静──
⋯⋯に、見えるけれど。
(⋯⋯なんだか、少しだけ怖い⋯⋯?)
「どなたですか」
朧の声は低く、静かで──
けれど、どこか刺すような冷たさがあった。
佐伯は一瞬たじろぐ。
「え、えっと⋯⋯澪のクラスメイトで⋯⋯」
「澪さんに、何のようですか」
「な、『何の用』って⋯⋯。心配して来ただけで⋯⋯」
「心配、ですか」
朧の金色の瞳が細められる。
「澪さんは、私が守っています。あなたが心配する必要はありません」
「っ⋯⋯!」
澪は思わず息を呑んだ。
(朧さん⋯⋯こんな言い方……)
佐伯は困惑したように澪を見る。
「澪……この人、誰?」
「え、えっと……その……」
澪が言葉に詰まった瞬間、
「私は、澪さんの花嫁です」
朧が淡々と言い切った。
「は、花婿っ!?」
佐伯の顔が真っ赤になる。
「な、なんで⋯⋯そんな⋯⋯」
「理由を説明する理由はありません。澪さんは、私と共にあります」
朧は澪の手をそっと取った。
その仕草は優しいのに、どこか”離さない”という強い意志があった。
佐伯は混乱したまま、
「また学校で⋯⋯」とだけ言って帰っていった。
ふたりきりになると、澪はそっと朧を見上げた。
「お、朧さん⋯⋯あの……」
「……何か、気に入りませんでしたか
もしそうなら……謝ります」
「い、いえ……ただ……
朧さん、少し……怒っていらっしゃいましたよね……?」
朧は一瞬だけ目を伏せた。
「……怒ってはいません」
(“怒っては”⋯?)
「でも……」
「ただ……」
朧は澪の手を離さず、静かに言った。
「あなたが他の男性と親しげに話しているのを見て……
胸が、ざわつきました」
「……っ」
「これは……嫉妬、というのでしょうか」
澪の心臓が どくん、と跳ねる
「……朧さん」
「私は……あなたを失いたくありません」
その言葉は、今までで一番まっすぐで、一番強かった。
澪は、そっと胸元を押さえた。
(……朧さんが、私のことで……嫉妬してくれた……)
胸が、熱くて、苦しくて──
でもそれよりも、ずっとずっと嬉しかった。
コメント
1件
また嫉妬だ❗️ 嬉しいな(*´▽`*)