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やっと仮じゃ無くなるか❕
屋敷の縁側に座り、澪は静かに風を感じていた。
(……朧さん、嫉妬してくださった……
私なんかのために……)
思い返すたびに胸が痛くなる。
(でも……どうして、あんなに強く……)
考えていると、屋敷の奥から声が聞こえた。
「朧様、こちらの書状をお持ちしました」
「ありがとうございます。助かります」
(……女性の声……?)
澪はそっと立ち上がり、声の方へ向かった。
部屋の前まで来ると、そこには以前とは別の妖の女性がいた。
淡い銀色の髪に、透き通るような肌。
朧と同じくらいの年齢に見える。
「朧様は本当にお優しいですね。
異界でも、朧様の噂は絶えません」
「噂など、どうでもいいことです」
朧は淡々と答えるが、女性は楽しそうに微笑んでいる。
(……?そういえば、以前来た女性も、朧様の事を言っていたような……)
「でも……花嫁を迎えられたと聞いて、皆が驚いておりましたよ」
「……そうですか」
(……花嫁……)
澪の胸が、きゅっと痛んだ。
女性はさらに朧に近づき、袖を軽く触れさせるようにして話す。
「朧様ほどの方なら、本当の花嫁を選ぶのも難しいでしょうね」
「……」
朧は真剣な顔をしたまま、何も言わない。
(……朧さん……)
澪は胸の奥がざわざわして、息が少しだけ苦しくなった。
「……お、朧さん」
気づけば、澪は部屋に入っていた。
朧が振り返る。
「澪さん、どうされましたか」
(私、どうして部屋に入って……)
「い、いえ……その……」
女性の妖が澪を見て、柔らかく微笑む。
「まあ……あなたが、朧様のお嫁様ですね。
とてもかわいらしい方」
(……可愛いなんて……そんなこと、朧さんに言われたこと……
……?以前来た方に、朧さん『美しいですよ』って……)
胸がまた痛む。
補正は朧に向き直り、名残惜しそうに頭を下げた。
「では、朧様。また後日」
「ええ。お気をつけて」
女性が去ると、部屋には沈黙ができた。
「澪さん」
「……はい」
「顔色が優れません。どこか痛むのですか」
「……痛い、です」
「どこがですか」
澪は胸元を押さえた。
「……ここが……少し……」
「胸が……痛むのですか」
「はい……
朧さんが……あの方と話しているのを見て……
なんだか……苦しくて……」
朧は一歩、澪に近づいた。
「澪さん」
「……はい」
「それは……嫉妬です」
「っ……!」
澪の頬が一気に熱くなる。
「そっ……そんなこと…!
……ありません……だって、朧さんと私は”仮”で結ばれている関係です……」
澪は悲しい顔をしていた。
「……」
朧は顔を歪めていた。
「あなたが……私のことで胸を痛めるなど……思ってもいませんでした」
朧の声は静かで、けれど、どこか嬉しそうだった。
「……私は……」
澪は視線を落とし、小さく息を吸った。
「朧さんが……誰かと親しくしているのを見ると……
胸の奥が……痛く…て、すごく……嫌…です」
朧はそっと澪の手を取った。
「……私も同じです」
「え……」
「あなたが他の誰かと親しくするのは……耐えられません
でも……このような感情を誰かに抱いたことはなく……どう伝えれば……」
澪の心臓が、今までに無いほど どくん、どくん、と跳ねる。
(……朧さんも……?というか……初めて……?)
──どうして……?どうして、こんなにも……胸が痛くて……温かいんだろう……
だめなのに……。私は、朧さんの”仮の花嫁”なのに……。”仮”で結ばれている関係なのに……。いつかは、離れなければいけないのに。
でも、これ以上朧さんに対する気持ちは、抑えられる気がしない──。