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世界中を熱狂させるハリウッドのトップスター、シャーロット・ヘイズバーグ。
彼女は今、北海道の限界集落にある、俺の家の古民家の縁側に力なく座り込んでいた。
「……はぁ。まさか、日本への直行便からレンタカーを飛ばして、こんな山奥まで本当に来ちゃうなんて……」
小春ちゃんが、信じられないものを見る目でシャーロットを見つめている。
配信用のスマートフォンはジンバルに固定されたまま、この歴史的な密着映像を全世界250万人の視聴者へとリアルタイムで届け続けていた。
『嘘だろ……あのシャーロットが縁側でぐったりしてるぞ』
『すっぴん&泥だらけなのに、信じられないくらい美しい……』
『ハリウッドのパパラッチが見たら発狂する映像』
『シロ様の横にいるだけで、まるで映画のワンシーンみたいだ』
視聴者たちがざわめく中、シャーロットの腹の虫が、限界集落の静寂を切り裂くように『ぐきゅるるるるるっ』と盛大に鳴り響いた。
「……Oh」
シャーロットが、顔を真っ赤にしてお腹を押さえる。
「……すみません、主さん。実は日本に着いてから、パパラッチを撒くために飲まず食わずでここまで来て……お腹が、ペコペコなの」
世界で最も美しいと称される女優が、縁側で腹の虫を鳴らして恥じらっている。
「なるほど。長旅でお疲れのところ申し訳ありませんが、うちは飲食店ではないので……」
俺がいつもの『フラットな接客モード』で断ろうとした、その時だ。
「お兄さん! ダメですよ! こんなにヘトヘトになってるんですから、何か作ってあげましょうよ!」
小春ちゃんが俺の背中を押し、足元ではシロが『ミャウ(早く食べさせてあげなさい)』とでも言いたげに、俺をジト目で見上げてきた。
「……やれやれ。仕方ないな。少し待っててください」
俺は立ち上がり、台所へと向かった。
冷蔵庫を開けるが、気の利いたおもてなし料理の材料など入っていない。
あるのは、先日あの『魔法の畑』の土の隅っこで、試しに育ててみたら3日で実ってしまったという、規格外の『自家製玄米』だけだ。
炊飯器を開けると、炊きたてのその玄米は、まるで一粒一粒が琥珀のようにぼんやりと内側から発光していた。
「……まぁ、これなら間違いないか」
俺は手を水で濡らし、粗塩を手のひらにまぶした。
そして、炊きたての熱い『光る玄米』を両手で包み込み、空気を含ませるように、優しく、ふっくらと三角形に握っていく。
高級な具材なんていらない。鮭も、明太子も、昆布すらも不要だ。
シロのマイナスイオンと神聖な大地のエネルギーを限界まで吸い込んだこの玄米は、ただの『塩むすび』にすることで、その真価を最も発揮する。
数分後。
俺は湯気を立てる二つの塩むすびを皿に乗せ、縁側でぐったりしているシャーロットの前に差し出した。
「お待たせしました。具なしの塩むすびですが、どうぞ」
「……Brown rice ball? これが、あなたのおもてなし?」
シャーロットは、お皿の上の黄金色の塊を見て、少しだけ怪訝そうな顔をした。
ハリウッドのトップスターである彼女が普段口にしているのは、専属シェフが作る徹底的にカロリー計算されたオーガニックサラダや、高級レストランのフルコースだろう。
こんな、ただ炭水化物を塩で丸めただけの食べ物など、何年、いや十何年も口にしていないはずだ。
「炭水化物は……私のスタイル維持の敵なのだけれど……」
躊躇う彼女の前で、玄米の塩むすびから立ち上る湯気が、フワリと彼女の鼻腔をくすぐった。
「……!」
その瞬間、シャーロットの碧い瞳が大きく見開かれた。
玄米特有の香ばしく甘い香りの中に混じる、圧倒的な清涼感と、どこか懐かしい陽だまりのような匂い。
それは、彼女がハリウッドの重圧の中でずっと忘れかけていた、『安心』の香りだった。
「……いただくわ」
シャーロットは、まるで吸い寄せられるように塩むすびを両手で持ち上げ、その端を小さくかじった。
「――――」
その直後。彼女の動きが、完全に停止した。
『……シャーロット?』
『おい、大丈夫か!?』
『一口食べたまま動かなくなったぞ!』
『主、まさか変なもの入れたんじゃないだろうな!?』
視聴者たちが騒然とする中、シャーロットの瞳から、大粒の涙がポロポロと溢れ落ち始めたのだ。
「あ……ああ……」
彼女は、口の中の玄米をゆっくりと咀嚼しながら、嗚咽を漏らした。
口の中でほどける、プチプチとした香ばしい粒。
絶妙な塩加減が、玄米本来の強烈な甘みと旨味を引き出し、それがシロの『神聖な癒やしの波動』となって、彼女の極限まで張り詰めていた神経を内側から解きほぐしていく。
「……美味しい。……なんて、なんて優しくて、温かいの……」
シャーロットは、子供のようにしゃくり上げながら、両手で持った塩むすびを夢中で頬張り始めた。
「私……ずっと、怖かったの。少しでも太れば叩かれ、少しでも老ければ捨てられる。誰も信じられなくて、毎日毎日、胃薬を飲みながら作り笑いをして……」
彼女の口から零れ落ちたのは、煌びやかな世界の裏側に隠された、底知れない孤独とプレッシャーだった。
それは、形こそ違えど、俺が東京のブラック企業で感じていたあの『絶望』と、酷似していた。
「でも、これ……これを食べたら、全部どうでもよくなっちゃった……。お母さんが昔、泣いている私に作ってくれたスープみたい……本当に、温かい……ッ!」
ハリウッドのトップスターが、泥だらけの顔で涙と鼻水を流し、ただの塩むすびを貪り食っている。
その姿は、決して美しくなどなかった。
だが、これ以上ないほどに『人間』らしく、そして救済に満ちていた。
『ミャウ……』
『キュゥン……』
シロとキツネ兄弟が、泣きじゃくるシャーロットの足元にすり寄り、その柔らかな毛並みを彼女の足に擦り付けた。
「シロ……コン吉、コン次郎……ありがとう。あなたたちも、本当に温かいのね……」
シャーロットは塩むすびを飲み込むと、三匹を抱きしめ、縁側の板張りに顔を伏せて声を上げて泣いた。
配信のチャット欄は、すでに涙の海と化していた。
『あかん、俺まで泣けてきた……』
『シャーロット、ずっと一人で戦ってたんだな……』
『魔法の塩むすびが、彼女の心を救ったんだ』
『主、あんたは世界一のシェフだよ』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Tears won’t stop… Master, you saved her soul.“(涙が止まらない……主よ、君は彼女の魂を救ったのだ)』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”BEAUTIFUL… THIS IS THE TRUE SALVATION!“(美しい……これぞ真の救済だ!)』
数百万人が見守る中、飛び交う莫大なMeTubeギフトと、温かいコメントの数々。
「お兄さん……おにぎり一つで、ハリウッドスターを泣かせちゃうなんて、すごすぎます……」
小春ちゃんも、もらい泣きをしながら鼻をすすっている。
「いや、俺はただ塩を振って握っただけだ。すごいのは、シロの畑で採れた米と、北海道の大自然さ」
俺は、いつものように現実から目を背け(現実逃避し)ながら、ほうじ茶の湯呑みを手に取った。
「皆さま、落ち着いてください。北海道の米は非常に糖度が高く、長旅の空腹時に食べると血糖値が急上昇して、一時的に感情が高ぶることがあるんです。ええ、ただの生理現象です」
『また主の言い訳が始まったww』
『生理現象で号泣してたら世話ないわww』
『限界社畜おじさん、ハリウッドスターの涙も「血糖値のせい」で片付ける』
『ブレない主が最高に好きだ』
俺の苦しすぎる解説に、視聴者たちは泣き笑いのツッコミを入れながら、この奇跡のような日常を噛み締めていた。
お忍びでやってきたハリウッドのトップ女優は、こうして限界集落の古民家で、究極のデトックスを果たすことになったのだ。
秋の陽だまりの中、縁側に響く彼女の穏やかな寝息は、この場所が世界で最も安全で、温かい聖域であることを証明していた。
コメント
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**ゆうき あきや さん!! 第44話、涙が止まらなかったよ〜😭💕** ハリウッド女優が縁側で塩むすび食べて大号泣…尊すぎる!!「太れば叩かれ老ければ捨てられる」シャーロットの孤独がリアルで、シロ様&子ギツネたちがすり寄るシーンで完全にやられた…。心の壁、おにぎり一個で溶かしちゃうとか主さん強すぎww でも最後の「血糖値のせい」理論でまた笑わせてくるのずるい🤣 ほっこりとエモさと笑いのバランス天才すぎるよ!!! 次の話も楽しみにしてるね⋆♡
ゆうき あきや
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#心理描写重視