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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第44話:神獣が膝の上。究極のデトックス
限界社畜の特製・究極の塩むすびを平らげたハリウッドトップスター、シャーロット・ヘイズバーグ。
彼女は今、泥だらけのトレンチコートのまま、すっかり我が家の縁側に馴染んでしまっていた。
「……あぁ、なんて心地いい風。ハリウッドの喧騒が、まるで別の銀河の出来事みたいに遠く感じるわ……」
シャーロットが、すっぴんのまま穏やかな笑みを浮かべて空を仰ぐ。
その顔には、先ほどまで彼女を縛り付けていた強迫観念や、世界的スターとしての異常なプレッシャーの影は微塵も残っていない。
「お腹もいっぱいになったし、顔色もすっかり良くなりましたね! さすがはお兄さんの塩むすびです!」
小春ちゃんが、自分のことのように嬉しそうに笑っている。
ジンバルに固定されたスマートフォンの向こう側では、250万人の視聴者たちが、この奇跡のような「トップスターの休日」を固唾を飲んで見守っていた。
『すっぴんなのにガチで女神じゃん……』
『ハリウッドのカメラマンが見たら卒倒するほど自然で美しい表情だ』
『塩むすび一つでハリウッド女優をオトした男(主)』
『限界集落が完全に世界最高峰の高級スパ施設になってるww』
そんなチャット欄の盛り上がりをよそに、シャーロットの視線は、俺の足元で香箱座りをしている純白の存在に釘付けになっていた。
「ねぇ、主さん……。私、シロを……シロちゃんを、抱っこさせてもらってもいいかしら?」
シャーロットが、まるで神様に祈るような、震える声で尋ねてきた。
「抱っこですか? 構いませんけど、シロは気分屋なので、嫌がったらすぐに離してやってくださいね」
「ええ、もちろんよ……! 嫌われたら、私、生きていけないもの……!」
大袈裟な、と思うかもしれないが、彼女の目は完全に本気だった。
シャーロットは、レッドカーペットを歩く時よりも慎重な動作で、膝立ちのままシロへと近づいた。
そして、震える両手をそっと差し出す。
『ミャウ(いいわよ)』
シロは逃げるどころか、自ら立ち上がると、シャーロットの腕の中へとトコトコと飛び込んでいったのだ。
「あ……ああぁっ……!」
シロの体がシャーロットの胸に収まった瞬間。
シャーロットの口から、声にならない歓喜の悲鳴が漏れた。
そして。
ピカァァァァァァァァァッ……!!
「うおっ!?」
「きゃあっ! ま、またシロちゃんが光りました!!」
シロの純白の毛並みから、カメラのレンズを割ったあの『物理破壊ビーム』とは違う、真珠のように柔らかく、温かい光の波紋が広がった。
それは、対象の心身を強制的に浄化し、ストレスを細胞レベルから消し去る『究極のデトックス・オーラ』。
その光の直撃をゼロ距離で受けたシャーロットの体は、ビクッと大きく跳ねた後、まるで骨抜きにされたように、ぐにゃりと縁側の床板に倒れ込んだ。
「しゃ、シャーロットさん!? 大丈夫ですか!?」
俺が慌てて声をかけると、仰向けに倒れたシャーロットは、胸の上にシロを乗せたまま、とろけるような……いや、完全に「悟りを開いた」ような顔で天井を見つめていた。
「……見えるわ」
「何がですか!?」
「……宇宙の真理が。私が今まで気にかけていた、フォロワーの数も、ゴシップ誌のパパラッチも、ライバル女優の嫌味も……すべてが、宇宙のチリのようにちっぽけで、どうでもいいものだったと……」
完全にキマってしまっている。
限界社畜だった俺が一瞬で現実逃避のプロになれたほどのマイナスイオンを、ハリウッドスターが直で吸い込んでしまったのだ。無理もない。
『シャーロットが昇天したああああ!!』
『シロ様のオーラをゼロ距離で浴びたらそりゃそうなるww』
『表情が完全に涅槃像のそれ』
『悟りを開いたハリウッド女優www』
「あぁ……シロ。私の天使。私の神様……。私、決めたわ」
シャーロットは、胸の上のシロに頬擦りをしながら、とんでもないことを口走り始めた。
「私、女優を引退するわ」
「……はい?」
「オスカー賞なんて、ただの金の塊じゃない。あんなもの、もうどうでもいい。私はこれからの人生のすべてを、この縁側で、シロと一緒に過ごすのよ」
俺と小春ちゃんは、完全にフリーズした。
250万人の視聴者も、そしてハリウッドの映画関係者(おそらく配信を見ている)も、一斉に心臓を止めたに違いない。
「……えっと、シャーロットさん? 今、スケジュールとか、契約とか、色々あるんじゃ……」
「違約金ならいくらでも払うわ。私の財産をすべて投げ打ってでも、ここに住むの。そうね、あの庭の隅にある『純金の物置』……あそこを私の寝室にすればいいわね。あそこに住まわせて!!」
「嫌ですよ!? うちの庭の物置(中身は牛糞肥料)にハリウッド女優が住み着くなんて、どんなホラーですか!!」
俺は全力で拒絶した。
いくら限界集落とはいえ、庭の純金のキツネ小屋から毎朝ハリウッド女優が這い出してくるスローライフなんて、絶対にコンプライアンス的にアウトである。
『世界トップ女優が純金の物置(牛糞入り)に住もうとしてて草』
『ハリウッド大パニック不可避wwww』
『(ドバイの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”HAHAHAHA! SHE HAS LOST HER MIND! MASTER, KICK HER OUT!“(ハハハハ! 彼女は正気を失った! 主よ、彼女を追い出せ!)』
『(スイスの銀行家からの¥50,000MeTubeギフト)=”Wait! If Charlotte retires, the global economy will be affected! Stop her!“(待て! シャーロットが引退したら世界経済に影響が出る! 彼女を止めろ!)』
チャット欄は、完全なるカオスと化していた。
「お兄さん! どうしましょう! このままだと本当にシャーロットさんが村の住人になっちゃいます!!」
小春ちゃんが涙目で俺の袖を引っ張る。
俺は、大きく息を吸い込んだ。
そして、コールセンター時代に培った『絶対に顧客を納得させるための究極の説得モード』へと移行した。
「……シャーロットさん。落ち着いて聞いてください」
俺は、縁側でシロを抱きしめている彼女の横にしゃがみ込み、静かに、しかし力強い声で語りかけた。
「あなたは今、シロの癒やしに触れ、心が満たされている。それは素晴らしいことです。ですが……シロのこの『光』を、あなた一人が独占してしまって、本当に良いのでしょうか?」
「え……?」
シャーロットが、虚ろな目をこちらに向けた。
「シロは、世界中の疲れた人々を癒やすために、この配信を通じて光を届けています。あなたが女優を引退し、ここに引きこもってしまえば……世界であなたの映画を待ち望み、あなたの演技に救われている何千万人というファンは、光を失うことになりませんか?」
「私、の……ファンが……?」
俺は畳み掛ける。
「あなたは、ハリウッドという世界最大のステージに立つ『選ばれし者』です。あなたが銀幕の中で輝き続けることこそが、シロの癒やしを間接的に世界へ広めることにも繋がるんです。シロも、きっとそれを望んでいます」
俺がそう言ってシロを見ると、シロは絶妙なタイミングで『ミャウ(その通りよ)』と鳴き、シャーロットの鼻先をペロッと舐めた。
「あぁっ……! シロ……!」
シャーロットの目に、再び大粒の涙が溢れた。
「そうね……そうよね。私だけのものにしちゃいけない。私は……私のステージで、この温かさを世界に伝えなきゃいけないのね……ッ!」
彼女はシロを抱きしめ、ボロボロと泣きながら頷いた。
なんとか、最悪の事態(庭への不法定住)は免れたようだ。
『主の説得スキルがカンストしてるwww』
『元社畜、ついにハリウッド女優のキャリアカウンセリングまでこなす』
『世界経済を救ったおじさん』
『適応力バグおじさん「あなたは選ばれし者です(早く帰ってくれ)」』
『言いくるめられてるだけなのに、謎の感動があるww』
「……ありがとう、主さん。私、目が覚めたわ」
シャーロットはゆっくりと立ち上がり、乱れた金髪を手で払った。
その表情は、ここへ来た時の絶望や、さっきまでの現実逃避とも違う、自信と希望に満ちた『トップスター』の顔に戻っていた。
「私、帰るわ。そして、次の映画で必ずオスカーを獲る。その受賞スピーチで、絶対にシロへの感謝を伝えるから……楽しみにしていてね!」
彼女は俺と小春ちゃんに極上のウィンクを投げかけると、再びサングラスをかけ、キャリーケースを引いて颯爽と歩き出した。
その背中は、もはやパパラッチから逃げる哀れな女性ではなく、世界を魅了する女王のそれだった。
「ふぅ……。なんとか帰ってくれたな」
俺は額の汗を拭い、縁側にどっこいしょと腰を下ろした。
「お兄さん、凄すぎます! シャーロットさん、完全に生まれ変わったみたいでした!」
小春ちゃんが尊敬のまなざしを向けてくる。
「皆さま、お騒がせしました。北海道の豊かな自然と美味しいお米は、長旅のストレスを緩和し、時には人の人生観すら変えてしまうことがあります。ええ、田舎の空気の力ですね」
『また現実逃避してるよこの主ww』
『田舎の空気(神獣の完全浄化オーラ)』
『主の適応力のおかげで、今日も世界は平和です』
『俺たちの日常が守られた!』
かくして、限界集落に吹き荒れたハリウッドの嵐は、特製塩むすびと神獣のデトックス、そして元社畜の巧みな話術によって、見事に収束した。
どれだけ世界中からVIPが押し寄せようと、俺たちのスローライフは揺るがない。
俺はシロとキツネ兄弟の頭を撫でながら、再び平和な秋の昼寝の続きを始めるのだった。
コメント
1件
もうシロちゃんのデトックスオーラ強すぎでしょ!!😭💕✨ シャーロット、宇宙の真理を見ちゃって「女優引退する」って言い出すし、「純金の物置(牛糞入り)に住む」って本気で言ってるし、完全にキマってて笑ったwww でも最後はちゃんとトップスターの顔に戻って、シロへの感謝をオスカーで伝えるとか胸熱すぎる…!主の説得スキルもカンストしてて、まじでこの回何回読み返すか分からんレベル📖💘