テラーノベル
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「郁己、家ついたよ。歩ける?」
学校からそのまま病院に行き、薬をもらって家に帰ってきた。
命に別状はなかったが、ストレスのせいもあってか心身の疲労が大きい。
「ん、いけると、おもう…」
力が入らないのにどうにか立ち上がって家にはいると、上がり框に手をつき、床に座る。
ぱたぱたと足音がこちらに近づいてきて、燈和が顔を出す。
「お兄ちゃん、おかえり!今日ね、としょしつでえほん借りてきたの!…おにい、ちゃん…?」
小学3年生でまだまだ元気な子だが、兄が前から何かを隠していることはなんとなく感じていた。
「とうわ、ただいま…、ごめんね、おにい、ちゃん、このあとは、いそ、がしくて…」
真っ白な顔色で息が上がっている兄の姿を見た途端、手に持っていた絵本が床に落ちる。
「おにーちゃん…?だいじょうぶ?」
今まで見たことのない郁己の様子に、燈和は郁己の顔を覗き込む。
「燈和、お兄ちゃん疲れてるから、お母さんとえほん読もっか」
「…うん…」
落とした絵本を拾い、肩を落としてリビングへ行く燈和を横目にお母さんは郁己の介抱をする。
着替えて、手洗いうがいをして、薬を持って自分の部屋にいく。
(やば…また、7日間なのかな…)
ゴソゴソとクローゼットやチェストから自分の服を取り出して、ベッドの上に集める。
(な、んか、あるふぁの、においが、する…?)
すぅっと息を深く吸うと、制服の方に顔を向ける。
(こっち…?)
手を伸ばした先にあったのはさっきまで着ていた制服だった。
(なに、この、におい…)
Ratのときに蒼司の匂いがついたのか、それをベッドに持っていく。
自分の服の中に埋もれるようにはいると、制服を腕の中に抱き寄せる。
(ときわ、の…?でも、あるふぁのふぇろもんなんて、あびた、おぼえは、ないけど…)
でも何処か既視感のあることをおかしく思いなから、その匂いに鼻をうずめる。
おなかの奥が切なくなるような感覚に襲われ、びく、と体が跳ねる。
(おなかのおく、へん…っ、やぁっ、こわ…いっ)
リラックスしていた体はぴし、と固まって、寂しさが込み上げてくる。
発情期のときに部屋の中で1人でいることが当たり前なのに、誰かの温もりが欲しい、と胸がぽっかり空いたような感じがする。発情期が初めて起きたのは小学3年生のとき、もう6年以上続いているのに、今回は初めてのことばかりで不安が募る。
(だれか…)
「お兄ちゃん、おかえり、大丈夫?」
「ああ、叶都は?」
蒼司の左腕に貼ってある大きなガーゼと制服についた血が痛々しく、美羽はぎゅっと顔を顰める。
「大丈夫じゃないでしょ…」
「出血量が多かったみたい。安静にしてなさいよ、私、仕事戻るから。
美羽、ごめん、2人をよろしく」
お母さんが美羽と話している間に、蒼司は手を洗い、うがいをして着替える。
「お兄ちゃん、大丈夫…?」
リビングに入ると宿題をしていた叶都が蒼司の元に来て、心配そうな顔で兄の顔を覗き込む。
「大丈夫。お風呂、入ろうか」
「お兄ちゃんは安静にしててって今言われたとこでしょ…、私が入れてくるから」
いつの間にかリビングに戻ってきていた美羽に見つけられ、怒られる。
「お前、晩御飯もお風呂もできねぇだろ」
「いや、お兄ちゃんが無理して倒れられる方が大変なんですけど?」
美羽は母に似てきた。3個も年が違うのに、家事をしているのは殆ど美羽で、父親がいないせいもあってか、すごい頑張り屋さんだ。目の下にはクマがはっきりとでていて、寝れてないのがバレバレだ。
「いいから、そこでゴロゴロしといてね?私、ちび2人も見れないから」
「はいはい」
そう言って、叶都とお風呂に向かう美羽がいなくなった頃に、蒼司は立ち上がった。
美羽が部屋に入れてくれた洗濯物をたたみ始める。
たたんだ服をチェストにしまったところでお風呂から上がった美羽に気付かれてしまった。
「洗濯物たたんでくれるのはありがたいんだけど、今日は安静にしてくれてる方が助かるって何度言ったら分かるの?」
「お兄ちゃん、おねえちゃんの言う事聞かないの、だめだよ?」
叶都の追撃で大人しく言うことを聞いてくれたが、結局、叶都と遊んでいるので安静なんかじゃない。面倒くさくなったのか、美羽は口を出さずに晩御飯を作り始める。
(結局、あいつ、意識が戻ったのか…?俺は何をしたんだ…?)
ぐるぐると頭の中で同じことをずっと考えている間、郁己が苦しんでいることなど
知る由もなかった。
「数値、上がってるね。生活にも支障でてない?」
「まぁ…あんまり寝付けなくて…」
小学生の頃からお世話になっているので、そこそこの医師より相談しやすい。
「もうそろそろ成人するけど、番はつくるの?」
「いたらいいんでしょうけど、つくるかも決めてないので候補もなくて…」
「焦んなくていいんだけどね。できれば同じ階級をさがしてって言ってるんだけど、蒼司くんは…せめてA級…、それでもしんどいかも…」
Ωはαより少ない、だから、会えたとしても階級が同じ、なんて殆どありえない。
ましてや、蒼司の階級だと範囲は大きくないと会えるわけがない。
先生は思い当たったような顔をして蒼司に声を掛ける。
「蒼司くん、接触したΩの男の子の階級って分かる?」
蒼司はぎゅっと眉を寄せて、何処か考えるような仕草をした後、口を開いた。
「…分からないです…。けど、多分…」
「…思ったこと言っていいよ?」
歯切れ悪く話す蒼司に先生はそっと声を掛ける。
「多分、S以上かもしれないです」
はっきりと答えた蒼司の言葉に先生は目を見開く。
「、まぁ、検査結果的にもおかしくはないかもね…。影響も大きかったみたいだし…」
そう言って先生は蒼司の腕に貼られている大きなガーゼを見遣る。今までΩと接触しても何も起きなかった蒼司がこれほど影響されたということはその可能性も否定できない。
でも、欲求が溜まっている今、爆発してしまったのでは?ということもあって半信半疑のまま話を聞く。
「今までは抑制剤を飲んでなくても制御できたのに…」
思い出しては疼く体を忌々しく思うと同時に、それを求めてしまっている自分がいることも否定できなかった。
「あの、今後のためにも注射タイプの緊急抑制剤が欲しくて…」
「うん、じゃあ、それも出しとくけど…、普段飲んでる錠剤は足りてる?」
「あ、じゃあ、それも1ヶ月分もらってもいいですか」
「ん、追加しとくね」
もう、あんなことは起こしたくない。もし、同じことが起きたら次は抑えられない。
それが分かっているから関わらないようにしよう、と改めて思う蒼司の姿を見る先生の目は心配以外の何者でもなかった。
(いまだって思い出すだけで熱がぶり返すのに…会ったら…)
ぎゅっと口を横に引き結び、診察室をあとにする
ストックないし、最近忙しいので投稿が不規則になりますが読んでくださると嬉しいです
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第六話、読み終えました…。 郁己くんが制服から蒼司くんの匂いを感じ取って、お腹の奥が切なくなる感覚…すごく生々しくて、ドキっとしました。同じ発情期を何年も経験してきたのに、今回は“初めて”の感覚ばかりで怖がってるのが切ない…。一方、蒼司くんも抑制が効かなくなった自分に戸惑ってて、お互い無意識に引き寄せ合ってるのに距離を取ろうとするもどかしさがたまらないです。 燈和ちゃんや美羽ちゃんの存在が、優しい日常と対比になってて、二人の特別な繋がりがより際立って見えました。続き、気になります…!🌙