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第7話「グルッペンの声」
数日後。
セツナは、突然「上層幹部室へ出頭せよ」という命令を受けた。
それは、名目上は“表彰面談”。
けれど兵舎では、それが「処分」や「左遷」の隠語だという噂もあった。
⸻
案内された部屋は、軍本部の最上階。
立ち入りを許された者など、ほとんどいない。
重い扉の向こうにいたのは、総統・グルッペンだった。
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室内には他の幹部の姿はない。
ただ一人。国家の頂点に立つ男が、静かに机に座っていた。
セツナが敬礼しかけた瞬間、グルッペンが手をあげて止めた。
「形式は要らない。今日は君個人に話があって呼んだ」
その口調に感情はなく、だが妙な重みがあった。
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「……質問する。君は、なぜ“生き残った”?」
「……わかりません。ただ、生きたかったからです」
「なら、次の問いだ」
グルッペンはモニターに目を落とし、静かに言った。
「“黒瀬セツナ”という存在は、我が国の記録上、
本来すでに“死亡済み”でなければならない」
冷たい空気が、室内を一気に張り詰めさせた。
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「なぜ、それが今ここに座っている?
誰が君を救い、誰がそれを見逃した?」
セツナは答えなかった。
いや、答えられなかった。トントンの名も、鬱先生の名も出せなかった。
しかし——
「……その問いをするあなたは、僕に何を望んでいるんですか」
恐怖よりも先に、疑問が口からこぼれた。
グルッペンの瞳が、ほんの僅かに揺れる。
⸻
「君は今、国にとって不都合な存在だ。
だが同時に、“国に未来を問う存在”でもある」
「未来……?」
「誰かが記録を書き換え、誰かがそれを背負った。
君の存在は、その選択の証だ」
⸻
グルッペンは立ち上がり、部屋の奥へ歩いていった。
そして、書棚の奥から一冊の厚いファイルを差し出す。
「この中には、“国家が否定した全て”が書かれている。
読んでどうするかは君に任せる。
ただし——選んだ先が戦場なら、全てを背負え」
⸻
面談は、たったそれだけで終わった。
だがセツナの胸には、炎のような衝動が灯っていた。
「 背負うなら、最後まで。」