テラーノベル
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🌷夢の茶会と目覚めの声
点滴のチューブを通って、冷たい薬液が規則正しく体内へ注ぎ込まれていく。
目覚めていれば、激しい幻聴と恐怖の波が嵐のように自我を呑み込んでしまう。だからこそ、ここ——重い扉で閉ざされた精神障がい者施設の一室で、ティアは絶え間なく眠らされていた。
けれど、まぶたの裏側に広がる世界は、驚くほど色鮮やかで静かだった。
「お砂糖はふたつ、だったよね?」
幼い頃、知性こそがすべてだと信じていた母親が、唯一手作りしてくれた愛おしい記憶の残骸。ピンクのうさぎ、黄色いキリン、そして黒猫のぬいぐるみ。彼らが囲む小さな丸テーブルには、湯気を立てる紅茶と甘いクッキーが並んでいた。ティアは毎日、彼らと終わりのないティーパーティーを楽しんでいた。
その日、温かな紅茶を注ごうとしたティアの手が止まった。
お茶会の席に、見覚えのない「影」が佇んでいたからだ。光を失い、感情もなく、ただ途方に暮れて立ち尽くす女の心。
(ミリア先生……?)
その影に触れた瞬間、ティアの脳裏に、激しい衝動に駆られて誰かを壊してしまった記憶の断片がなだれ込んできた。自分を救おうとしてくれた温かな存在を、自分の幻聴が壊してしまったのだという残酷な真実。
ティアの胸を、激しい痛みが貫いた。
(ごめんなさい……私を許さなくていい。だから、帰って)
ティアは壊れかけたミリアの心を、優しく、けれど強く抱きしめた。母の作ったぬいぐるみたちが放つあたたかな光と、ティア自身の底底から湧き上がる純粋な「心の力」が、ミリアの影を包み込んでいく。
「あなたの帰る場所は、ここじゃない」
ティアの祈りとともに、光の粒子がミリアの心を現実の世界へと押し戻した。
二
「……あ」
カーテンの隙間から差し込む朝の光の中で、ミリアの瞳にうっすらと焦点が戻った。
「ミリア……?」
ベッドの脇で、スープの器を持った夫が息を呑む。
ずっと虚無を見つめていたはずの妻の瞳に、あたたかな光と、自分を愛おしそうに見つめる知性が確かに宿っていた。
「……あなた、心配をかけたわね」
ポロポロと涙をこぼす夫の腕の中で、ミリアは静かに微笑んだ。自分を深い闇から引き上げてくれたのは、眠りの中にいるティアの、小さくも強い心の力だったのだと、ミリアには分かっていた。
三
数ヶ月後。
ミリアはかつて勤めていた施設を辞め、夫が働く児童精神科のクリニックのドアをくぐっていた。
現実の世界では、ティアは今も定期的な点滴によって静かな眠りの中にいる。目覚めれば危険という現実は変わらない。けれどミリアは知っている。ティアがまぶたの裏で、あの愛らしいぬいぐるみたちと穏やかなお茶会を続けながら、確かな優しさをもって生きていることを。
「ミリア先生、あのね……」
診察室の隅で、小さな男の子が不安そうにミリアの裾を引っ張った。
「大丈夫よ。ゆっくり話してね」
しゃがみ込み、子供の目線に合わせるミリアの表情は穏やかだった。一度心を失い、そしてティアの奇跡によって引き戻された彼女の言葉は、傷ついた子供たちの心へ、誰よりも深く、温かく染み込んでいった。
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あさもん
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コメント
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みぅです🤍🥀 第2話、読み終わりました…。 夢の茶会、すごく綺麗で切なかった。ぬいぐるみたちとの温かい世界と、ミリア先生を救うために自分の心の力を使うティアの優しさに、胸がぎゅっとなったよ。影になったミリア先生を「帰る場所はここじゃない」って抱きしめるところ、本当に泣きそうになった…。 現実に戻ったミリア先生が、今度は子ども達の心に寄り添う存在になってるのも、すごく尊い。ティアの眠りの中の優しさが、確かに誰かを救ってるんだね。 ERINEKOさんの描く、闇の中の温かさ、すごく好きです🌙