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元タクシー運転手だったという異色の経歴を持つ野口の運転で、一同は、男爵家へ移動した。

到着した皆を迎えてくれたのは、何故か、岩崎の家から帰ったはずの新聞記者、沼田だった。



「えっ?!あんたどうして?!」



野口の顔色が変わった。



どうやら、自身の婦人雑誌が岩崎達を独占出来ると思っていたようで、新聞社に出て来られ少々不機嫌になっている。



「なるほどねぇ……」



帽子を被り外出姿の男爵が、沼田の側で新聞を見ていた。



「あら、京一さん。会合は?」



「ああ、芳子、出かけるつもりなんだけど、なんだか記者の方が新聞を見てくれと持って来られてねぇ」



そうです。と、沼田は我が物顔で頷いている。



「……なるほど。なるほど……」



男爵は、芳子とお咲の写真に頬を緩めた。



「そうそう!京一さん!!会合はお休みしてください!!もうーー!京介さんったら!勝手に祝言を挙げようとしていたの!京一さん!これから祝言よ!!」



「……祝言?!」



男爵は、沼田に新聞を突き返し、慌てて岩崎を見た。



「京介!!どういうことだ?!というよりも!なんだ!その、ボサボサの格好わっっ!!それで、祝言だと?!」



「すみません。兄上。撮影するとか婦人雑誌が言うもので、どうせ着替えるからと、急かされて…」



「それで、急かされ、祝言などと言うやつがいるかっ!!月子さんとは、まだ結納もかわしていないだろっ!筋は通さなければならん!」



面子に関わると、男爵は岩崎を一喝する。



「あら、筋……ですか。京一さん?月子さんは、もう京介さんと一緒に暮らしていますよ?そこは、構わないのかしら?」



「いや、芳子、それは、構わんだろう?!月子さんは足を怪我していたのだから!」



「ああ!そうだったわ!なんだか懐かしいわねぇ!」



怒る男爵とは裏腹に芳子は、嬉しそうに準備に張り切る素振りを見せ、執事の吉田を呼んだ。



「いや、まあ、ですから、お急ぎになられた方が?挙式に間に合いませんよ?」



野口が分かったような事を言いつつ、割って入って来る。



「そ、そうだ!この雑誌記者が勝手に祝言などと言って!演奏写真を撮るとかが、何故か祝言の話になってしまったのです!兄上!」



「えっ?!私のせいですって?!夫人に、写真もお願いとかなんとか言われ、お嬢ちゃんまで写真を撮りたがったじゃないですか?!」



「雑誌記者!違うだろっ!」



岩崎の野口への抗議に、男爵は渋い顔を見せる。



「京介!写真を撮るならば、なおさらそのボサボサの格好では、いかんだろうがっ!まるで、床《とこ》を抜け出してきた、寝起きそのものじゃないかっ!」



「はあ、まあ、それは……」



兄に痛いところを突かれ、岩崎は小さくなる。



「まあまあ、そうお怒りにならずとも。ひとまずお支度にはいりましょう。うちも仕事になりませんからねぇ」



野口は、飄々と云うが、この言葉に、沼田が血相を変えた。



「ちょっと待て!お宅何者なんだ?!こっちが先に目をつけたんだぞ!」



なかば、岩崎の取り合い状態になり、喧々囂々、どうにもならない様に思えたのだが……。



「事情はわかりました。では、お支度いたしましょう」



折り目正しいお辞儀をしながら、執事の吉田が皆を促す。



「……つまり、仮祝言ということで構いませんでしょうか?そこのところ、ハッキリさせていただきませんと、こちらにも、だんどりというものがございまして……」



言葉を濁しながらも吉田はかなり大胆な事を言ってくれる。



「ということでしたら……旦那様、本日の会合は欠席なさるということで?先様へ連絡致します」



「吉田。そうだな。今日の会合はたいした話でもないし。で?なんだね?仮祝言というのは?」



男爵が、真面目な面持ちの吉田を問いただした。



「さすがに、男爵家とはいえ、只今より祝言というのは、少々無理がございます。しかしながら、奥様が仰ったように、思えば京介様と月子様はご同居されております。祝言前の男女が一つ屋根の下で暮らすとは、確かに風紀上よろしくございません。つきましては、旦那様が仰った、筋を通すという兼ね合いも込め、仮祝言、本祝言前に盃を固めておきますと……すべて、丸く収まると存じ上げますが?」



吉田は、さらりとこれまた大胆な事を事を言ってのけた。



側で、騒ぎに呆然としていた月子は、この提案に腰を抜かしそうになる。



仮祝言。固めの盃。その様なことを、今からなどと言われても。



常にドタバタが起こる事に、月子もなんとなくではあるか、慣れて来ていた。しかし、仮祝言というのは……さすがに……。



「月子様、盃を固めるだけでこざいますから、ここは、奥様のお召し物をお借りするということで、早速、お支度を。もちろん、本祝言には、月子様にふさわしいお支度をご用意いたします」



吉田は、月子の戸惑いを見越してなのか、いわゆる、ごり押し状態で、意見してきた。



「あら、まあ!そうよね!仮!それなら月子さんも、緊張しないわ!京介さんも早くお着替えなさいな!」


芳子も、いつもながらの勝手な後押しをしてくる。



「あっ、その、ですが、仮とはいえ、今からというのは……」



さすがに、何かおかしくないだろうか?というよりも、余計に緊張するのたが、と、月子は思う。



「そうだ!吉田の言う通りだ!月子さん、いつまでも、だらだらと、同居だけ、などということは止めなさい!けじめは、大切だよ?良い機会だ、これから、仮祝言を挙げよう!」



男爵までも、急にやる気になってしまい、野口が連れてきたカメラマンへ、記念写真を撮影するよう言いつけた。



元々、写真を撮る為にやって来ているカメラマンは、ついでだからと男爵に応じる始末で……。



「そうね、私は婦人雑誌を飾るんだったわ!ドレスで立ち会いでもかまわないかしらねぇ。その方が効率が良いと思うんだけど?」



芳子は、そもそもの目的、演奏会を再現して写真を撮るということを忘れていなかった。



しかし、仮とはいえ、祝言事にドレス姿は、いかがなものだろうかと悩んでいる。



「男爵夫人!それこそ、読者に夢を与えます!新しい祝言の形として、記事にするのも良いかもしれません!」



野口が、妙に弾け乗っかって来た。



「ちょっと待った!お宅何者なんだ?!薄々はわかっているがなっ!さっきから言ってんだろ!うちが先に目を着けたんだぞ!何、勝手なこと言ってるっ!!」



調子良い野口へ、沼田が、我慢ならんと怒鳴りつける。



記者二人の対立に、場はちょっとした騒ぎになるが、



「うるさいぞっ!!君たちこそ、なんなんだっ!人をなんだと思っているっ!!」



岩崎が怒りをぶちまけた。

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