テラーノベル
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そうして連れていかれたのは、屋上だった。
放課後である今なら誰もいない。
なんだか嫌な予感がする。
と、そのとき夏美ちゃんが言った。
「ねぇ雫ちゃん~五木くんのこと好きなの?」
「前、違うって言ったでしょ…?」
「ふーん、なら近寄んなよ」
「え……」
「私はね、五木くんのことが好きなの。だから、雫ちゃんみたいな子邪魔なの」
「大体、幼馴染の分際で彼女面しないでよ?」
「そ、そんなこと…!」
「だからさぁ……消えてくんない?あは、大丈夫!私優しいからさ~ 五木くんに嫌われるお手伝いぐらいはしてあげるよ?」
有無を言わせぬ圧と声色に、何も返せずにいた。
そんなとき、後ろから聞き覚えのある声が低い声を響かせた。
「何言ってんだお前」
「はっ、五木くん……?」
夏美ちゃんは明らかに動揺していた。
「雫になに吹き込んでんだ」
「吹き込むだなんてそんな!なんもしてないよ~?ただの世間話してただけ!ね、雫ちゃん?」
なにも言わない私に、五木は納得していないようだった。
そして、五木は私の手を引いて歩き出した。
「え、ちょっ、五木?」
助けて…くれた?
五木に問いかけるも歩みは止まらない。
「うるせぇな……お前、アイツになんか言われてただろ。」
「いや……まあそうだけど……」
「…そんで俺の事ちょくちょく避けてたんか」
「……えっと、気づいてたんだ…?」
「気づくわボケが」
「いや、私、五木と夏美ちゃんが付き合ってるって聞いて…」
「しょうもな」
「なっ、しょうもなって…!?」
「……噂に踊らされてんじゃねえよ。俺はお前が俺のこと避けてたのが気に入らねぇ…」
「五木だって、」
「あぁ?見てたんか」
「違う、けど、いやだった。なんか、胸が痛くなるの。意味わからないと思うけど…五木が夏美ちゃんとかと一緒にいるとこ見たら…」
「……っ、それ、お前な…っ」
「と、とにかく…お前は俺の隣に居りゃいいんだっつーの。昔っからそーだろうが」
五木はそう言って私の手を離して、また歩き出した。
「ねえ、もしかしてだけど心配して、助けに来てくれたの…?」
「たり前だろ…つーかお前の事だからどうせ我慢してんだろうなと思っただけだわ」
私はしばらく動けずにいたけど、我に返って慌てて五木の後を追ったのだった。
それから数日後の昼休みのこと。
私はいつも通り屋上でベンチに座り、昼食をとっていたのだが、そこにどうしてか五木がやってきた。
「え、五木……?えっなになに珍しいじゃん」
「別にいいだろ」
そう言って五木は私の隣に座ったので、私は慌てて
「いや、良いけど…また焼きそばパン?」
「悪ぃかよ」
「いや、別に…?…あ、私飲み物買ってくるね!」
そう言って私は五木を置いて屋上を出た。そして自販機でお茶を買い、屋上に戻ると、どうやら五木とクラスメイトの男子が何か話しているのが見え、思わず身を隠した。
内容は、ギリ聞こえる。
「桧山ってぶっちゃけ可愛くね?」
「寝言は寝て言えや」
「いや、本気だって!正直俺もワンチャンあるくね?」
「……は?お前何言ってんの」
「顔だけは可愛いからなぁ~俺も狙っちゃおっかな」
「おい、それ以上言ったら殺すぞてめぇ」
そんな会話が聞こえてきて、私は思わず息を飲んだ。
そして五木が男子を殴る音でハッと我に返る。
「ってぇ、冗談だっての…!本当に五木って桧山のことなるとおっかねぇよな」
「うるせぇ。早くどっか行けよ」
男子が屋上から出ていくのを確認すると、私も今出てきたことを装って五木の元に駆け寄った。
「五木ってやっぱ優しいね」
「は?なんだよ急に」
「さっき男子と話してるの、つい盗み見ちゃって」
「いたんかよ」
五木の耳が少し赤くなっている。
私はそれがなんだか嬉しくて、つい笑みがこぼれたのだった。
「ふふ、私、五木の優しいところ好きだよ?」
「なっ……」
五木はなんだか赤くなって、少しふてくされたように言った。
「あんまそういうこと言うなや」
「……え?どういうこと?」
「……なんでもねーよ」
五木はそう言って、また焼きそばパンを食べ始めたのだった。
その日の放課後、教室で帰り支度をしていると、突然太陽くんが話しかけてきた。
「ねぇ、桧山さん。今日一緒に帰らない?」
「えっ……う、うん!いいよ?」
すると彼は嬉しそうに笑った。
「じゃあ校門のとこで待ってるね」
「分かった!」
そんな会話をして、下駄箱に向かうと五木がいた。
「あれ?五木も今帰り?」
「……ああ」
なんだか少し機嫌が悪いように見える。
でも気のせいだろうと思った。
そのまま五木はスタスタと歩いて行ってしまったので、私は約束していた太陽くんの元に向かうことにした。
「ごめん、おまたせ」
「全然いいよ。じゃあ行こっか」
太陽くんはそう言って歩き出したので私も並んで歩く。
すると突然彼は言った。
「桧山さんと一度こんな風に話してみたかったから、一緒に帰れて嬉しいよ」
「え……?そ、そうだったんだ。私も太陽く…じゃなくて菅野くんと話すの楽しいよ!」
「太陽でいいよ」
「そ、そっか」
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